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A Cup of Coffee


今回の短編は、家でコーヒーを飲みながら思いついたフィクションです。

良ければ一読ください。
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「僕たちは偏見と暴力に満ちた世界に生きている。様々な立場の人間がおのおの利害意識を持って、その偏見と暴力を行使し、擁護し、それらを持って人々を煽動する。

 例えばワンカップ・コーヒー問題についてはどうだろうか。」とその人は言った。

「つまり、ワンカップ・コーヒー問題なんですね。あの戦いで日本の軍部が犯した人権侵害として取り上げられ、この人権侵害について日本政府は何をすべきかという事がよく論じられる、例の...」と僕は言った。

「そうだが、そもそも私たち日本人は、その戦時下の事件について何か言葉を持つことができているだろうか。ワンカップ・コーヒー問題として扱われた知人の友人と、隣り合ってそのニュースを見る時、何が言えるだろう」と言ってから、彼はなんのためらいもなく僕が淹れてもらったコーヒーのカップに手をかけた。

 カタッ、と音がして静寂がおとずれた。

 彼の指がかすかに震えているのが分かった。

「あれ、コーヒーをもう一つ頼みましょうか?」と僕は努めて明るく言った。

「いやいや、いいんだ。でも、このコーヒーはきっとうまいね」と彼は言って、僕のコーヒーから静かに手を離した。

「僕は何か言わなければいけないと思いますね」

僕が唐突に話題に戻ったからだろうか。

「え...」と彼の声が少し裏返った。

「先生、ワンカップ・コーヒーの話ですよ。僕はもし、ワンカップ・コーヒー問題として扱われた知人の友人と、隣り合ってそのニュースを見る事があったら、何か言うべきだと思います」と僕は言った。

「あぁ、そうだね。私もきっと何か言うと思う。

 そしてそれは単なる言い訳や共感ではなく、友人との間にこちらから新しい橋を架ける作業の始まりとしての、言葉でなければならない」と彼は言った。

 今度は落ち着いて、言葉をゆっくり区切りながら。

「なぜならそれは過去の問題ではなく、過去にその橋を築けなかったという現在の、私たちが直面している世界の問題であるからね」

「先生とは話が合いそうだ。きっとこの問題について先生も先日新聞で高梨一郎のコラムを読まれたんでしょう。
 あれで紹介されていた本の引用文を読んでから僕も、この問題について考えるのを止められなくなってしまって」

「そうだったかな。私は常にこの問題について研究しているからね。コラムなんて読んでも知っている事ばかりで、すぐに忘れてしまう」と彼は言った。

「そうですか。ちなみ僕の言っている引用文は、「帝国のコーヒー」という本からの引用文でした」と僕は言った。

 僕はつづけた。
「例えばこんな一節があったんです。

『戦時下ワンカップ・コーヒーと発言した者たちを日本は淡々と異動にしてきた。しかし彼らを僻地へ飛ばす幹部も飛ばされる部下も、それぞれワンカップ・コーヒーという言葉だけを選びとってきた。それは、ワンカップ・コーヒーの間違いを否定してきた人でも、その言い方を許容してきた人たちでも、基本的には変わらない。』

 問題に関して、責める側も責任を回避する側も自らの正当性を裏付けているという証拠について語るばかりで、それ以外の証拠を見ようとしていないんですよね」と僕は言った。

 彼は僕の話を聞いていないようだったが、店員を呼び止めて、自分のコーヒーを注文した。

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