キャプチャ1

焚火。

今回の短編は、三重のキャンプ場へ行った時に思いついたフィクションです。

良ければ一読ください。
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「せっかく年に一度の記念日なんだ、堅苦しいのは嫌だよ」と僕は言った。
「記念日って、ほどのことじゃないだろ」とカズは言った。
 ノダは何も言わずに黙って頷いた。

 どこへ行っても人混みだから、街の中心から離れたキャンプ場で3人で7月1日を迎えようと誰かが言い出した。
「君が帰ってきた記念だ」と言われた。
 おそらくノダだろう、と思う。
 カズは予定があっただろう、集合場所に遅れてやってきた。

- PM 11:30

「あと10分もすれば、この辺りも人がたくさんくる。
 このキャンプ場からも、花火はよく見えるんだ」とカズは言った。
「警報はよく聞こえるんだろう。
 でも、ここから花火が見えるなんて知らなかったな」とノダが言った。

「よく見えるらしいね」

「人がたくさん来るのか」とノダが言った。
「まぁ、10人か20人か。
 毎年カップルばかりだけど」
 カズはそう言うと、目の前の焚火に薪をくべた。

「カズも何度か来たことがあるんだ」と僕は言った。

 それからしばらくの間、僕は火に見とれて話すことを忘れた。
 7月1日の深夜に花火が上がることにも驚いたが、カズが何度かここに来ていることも奇妙な気がした。
 毎年7月1日の花火は警報と共に打ち上がる。
 僕は毎年この時期は地元にいないから、花火のことは聞いていたが、見たことはなかった。

 7月1日の花火は8年前に始まった。
 僕はちょうどそのころから、職場を異動になったこともあり、地元には帰らなくなった。

- PM 11:40

「焚火を強くしてくれよ。
 少し寒いな」
「薪は十分にあるのかな」と僕は聞いた。
「ここはムゲン薪なんだ。
 全国のキャンプ場を探しても、こんな親切なキャンプ場はないぜ」
 そう言ったのはノダの声だった。

 僕は昔覚えた方法で火の形を整えた。

 黒く貧弱になった枕木をたたき割ってスペースを作り、太めの薪をその上に配置した。
 酸素の入る空間を残しつつ、細い薪を新しい枕木に立てかけていった。

 テントを張るのと同じ要領だ。
 支柱の先端を中心に向けて、置いていけば綺麗に中の空間を作ることができる。

「これでいいかな。
 あと30分はもつと思う」と僕は言った。

「カズ、もう少し薪を足しておいてくれ」
「ムゲン薪だからな」とカズは言って、追加の薪を取りに火の前を離れた。

- PM 11:55

「ノダは火の番が好きだったよな」と僕は言った。
「うん...」
「カズはいつも料理をしてくれる。
 リョウはギターを弾いてくれる」
「リョウは予定があって今日は来れないって言ってたな」

 僕は久しぶりのキャンプで少し感傷的になっていた。

「俺はキャンプに行ったとき何をしていたんだろう」
「歌っていたんじゃないか」とカズが言った。

「歌っていないよ。
 歌ったとしても、ほとんど声なんか出ていない」と僕は言った。

 二人は黙って火を眺めていた。
 火の加減で見る二人は僕の知らない表情をしていた。
 目の前で燃える薪を僕はよく知っていた。

 さっきカズが入れた薪の内いくつかがすで燃え尽き灰になっていた。

「俺は君が歌うのを聞いたことがあるぜ」とノダが言った。
「俺も君が踊るのを見たことがある」

 カズはそう言って薪をくべた。

 パチパチッ、と薪の中の水泡が破裂して、警報が聞こえた

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