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何処からともなくやってきて

今回の短編は、引っ越しとガスの開通をしながら思いついたフィクションです。

良ければ一読ください。
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 ドーム上海へ引っ越してきたのは6月の1週目だったと思う。
 仲介業者から部屋の鍵をもらい忘れていて、3時間も大家さんを待ち続けた。

 携帯の充電は電話連絡という方法を思いつく前になくなった。
 タイミンが悪かったのだ。

 大家さんによると、こんな天気の悪い日にわざわざ越してくるなんて想像もしてなかったという。
「今時、携帯も持っていないなんて、あんた変ね」と大家さんは言った。

 別にそれを否定するつもりもなかった。
 僕の携帯は、スマートフォンというには少々心もとない代物だった。
 それに大家さんの電話番号なんて、どうせ使うこともない。

「はい。ほとんど使いませんね。仕事の時くらいです」と僕はその時言った。

 それからというもの、大家さんは休日になると必ず、どこか東南アジアの方からの「特産品」を部屋まで持ってきてくれた。
 一度、パックを開けたらひどい悪臭を放つ「特産品」があったので、それに関しては大家さんの目の前で返品を申し出た。

 大家さんもしぶしぶという感じで、その品物は廃棄処分となった。

 ドーム上海は居心地の良いアパートとは言えないが、人の出入りは少なく、静かだった。
 僕はそこが非常い気に入った。

 引っ越してきて、3週間が経ち、さすがにガスの開通をお願いしなければならない段になってきた。
 大家さんはこれまで、何度も来てはガスの開通を促した。

 至極当たり前のことだし、電話一本で済むのはずなのだが、後回しになっていたのだ。

 なので、平日の夕方、早上がりできたので電話してみたら、すぐに来てくれるということだった。
 そして、本当に30分もしないうちにノックが来た。

 トンッ、トンッ。

「はい」と僕はドア越しに聞こえるように言った。

 すると僕の声に被せるように、

 トンッ、トンッ、とまたノックした。

 僕は覗き穴を一応確認してから、ドアを開けた。

「駅ちかガスでーす。

 本日はガスの開通にきました」と彼は言った。

 彼は手際よく、給湯器などのチェックをして、手元の紙にチェックを付けていった。
 5分ほどで、 全てのチェックを付け終えて、

「あとは、こちらで開通しておきますね」と彼は言った。

 僕は渡された契約書へのサインをしてから、

「何時から使えますか。

 晩御飯と風呂はいけますか」と質問をした。

「今日中に開通しますが、これから1時間ほどお時間をいただきますので、ご了承くださーい」と彼は言って、

「それでは失礼しました」と部屋から出て行った。


 それから10分ほど僕は自分の部屋に何の変化もないことを確認した。
 部屋の椅子に座り、台所の方を向いて、注意深くガス栓を中心に周囲を眺めた。

 何も変化なんてなかった。

 そうしていると、またドアを叩く音がした。

 ノック、ノック。

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