High Ace
三日連続の投稿です。近頃、思ったよりたくさんの人が読んでくれるのでうれしいです。今日も書きます。朝方、友達と話しながら、思いついたフィクションです。
介護のお仕事について、お話することもある友達について想像しながら書いた短編小説です。
良ければ一読ください。
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「僕の車は、車椅子リフト付き車椅子の福祉車両だから、点検はしっかりとしないといけないの。」とカネさん言った。
カネさんとは、ふらっと立ち寄った南のバーで知り合った。彼女と別れて傷心で、ダーツでもしながら酒でも飲もうと思っていた夜だった。
そのバーでは、ラーメンが食べれる、そしてダーツもできる。店の机と椅子は、油っぽくて、ラーメン屋なのかバーなのか、どっちかわからない。
そんな店にダーツをしに来るのは僕くらいなもんだろう、と思っていた。
「そうなんですね。ちなみにカネさんはどうして介護の仕事をしようと思ったんですか。」と、僕は聞いた。
「んー、そうだな。気づいたら介護の仕事をしてたんだよ」と、カネさんは答えた。
「タロちゃん、って呼ぼうか。なんて呼べばいいんや」カネさんは、話題を変えた。
「タローでいいですよ。僕は、なんて呼ばれてもいいですね。というか、ダーツに付き合ってくれて、ありがとうございます。このバーに来るたびに、カネさんとダーツができるからうれしいっす。」
僕も話題を変えた。
「そかそか。タロちゃんはダーツ下手だけど、筋はなかなかいいよ。もっと練習すればいいやん。」
「まだ下手っすよね。でも、楽しいっす」と、僕は言った。
楽しいのはカネさんが居て、教えてくれるからであって、別にダーツそのものが、ほんとに楽しいってわけではないのだけど…。
「タロちゃんダーツには種類があるって知ってる?」
「えーと、ハードダーツと、ソフトダーツでしたっけ…。」
「素材の違いで、大きく二つに種類別できるんだよ。タングステンダーツとブラスダーツ、その2種類の違い。それからカット、滑り止めのことだね。その刻みの数とか間隔、バレルその物の形状や重量、重心なんかで、更に、ダーツの種類が枝分かれする。」
「いつもいつも教えてくれてありがとうっす。とても助かってます。」
「ちなみにさ、介護にも、要介護1、要介護2って種類があるんだよ。認知症があるか、どうか。居宅において日常生活を営むことが難しい場合は、特例的に特別養護老人ホームへの入所が認められてるんだ。」
カネさんは、また話題を変えた。
「いたくって何ですか?」
「あぁ、ごめんね。居宅ってのは、家に居るってこと。」
「なるほど、介護度が低いからって、家で介助するのが絶対じゃないってことですね」と僕は聞いた。
「というか、タロちゃん。そういう状況で、悩んでいる人はたくさんいるんだよ。特別養護老人ホームに、申込んだ人が全員もれなく、入れるわけではないんだからさ。」
カネさんと僕は、その時ようやく目が合った。
カネさんの目には小さな銀河があるようだ。深い、その目に引き込まれるようにして、僕は一瞬、時空が歪んで、その辺の空気が、カネさんの目に向かって吸い込まれていくような感覚になる。
空気が止まったように感じる。今日会って、初めて見たカネさんの目、その深淵には僕とは違う時間が流れている。
「とにかく俺のハイエースには車椅子の設備があって、タロちゃんはダーツがまだ下手で、老人ホームに入居するのは、そう簡単なことじゃないってことさ。」とカネさんは言った。
「そうなんですね。ホームの見学だけでもしてみたいな、おばあちゃんも認知症なんで。」と、僕は言った。
「そかそか。それなら気軽に相談してよ。先週の車の点検も異常なしだったし、今日は家まで送るよ。」と、カネさんは言った。
「いえいえ、今日は僕がソフトドリンクで、カネさんはハードドリンク飲んでるじゃないですか。」
「ハードドリンク?麦のロックだよ。」
あとは安全運転を心がけるだけだ。カネさんを送るのは今日の僕の仕事だから。
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