ノダ・エラー
今回の短編は、思い付きのフィクションです。
良ければ一読ください。
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「ノダ君によく似ているね...」と、急に言われた。京都駅前のスクランブル交差点(の北西端へたどり着いたあたり)。そう言って、その人は僕の手首を強めに(静電気すら起こった)握った。
「ちょっと顔を見せて」と女の人の声が立て続けにした。手首をわし掴みにされていたので、僕はできるだけ訝し気に、その声がする方に向かって上体をひねって振り返って(さながら、財布をすられたのに気が付いた刑事のように)女性の顔を見た。
そこには見覚えのない三十代だが白髪交じりの女性が、こちらの顔を(雑踏で腕をわし掴まれた僕自身よりもさらに)訝し気に見ていた。
「...っ。誰ですか?」
「...手を離していただけますか?」と僕は言った。
相手の女性は呆気にとられた顔で、僕の顔を見ているだけだった。
それでは、と僕は容赦なく自分の手首をひねって、彼女の手を振りほどいた。
「ごめんなさい。人違い...」とその人は謝った。
「いいえ」と言って、僕は立ち止ったところから半回転してみた。今度は北東の歩道(交差ゼブラの終わり)に向かって、何事もなかったように歩いていった。例の女性か後ろで何か言いかけたような声がした。(ぁ、あの...)僕は構わず歩き続けた。何でもない日曜日の午後だった。特別にどこか用事があったわけではなかった。ありもしない予想(あの女性は綺麗な方だったけれど、潜在的ストーカーだろうか)に頭が支配された。イオンモールを2周半したところで、後ろにも、どこにも全くその女性「気配」というものが消えていて、少し冷静になった。
とにかく、いつも通勤に使う乗り換え駅に向かって歩き出した。
駅に向かいながら僕は、彼女の言った「ノダ君」の事を想像してみた。自分と同じ姓を持つその野田君について、自分自身の事のように思った。ひょっとすると、あの女性は僕にとってとても重要な意味を持つ人だったのではないかという気がした。
一日中、マナモードにしていたはずの携帯の着信音が鳴っていた。
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