ファミリーマートの早期退職は何を間違えたのか

コンビニエンスストア大手の「ファミリーマート」。恐らくは誰しもが一度は利用したことがあるであろう大手チェーンである。

そのファミリーマートが喧噪に包まれているという。きっかけは「早期退職」制度。

かいつまんだところで概要から紐解いていこう。

ファミリーマート早期退職の概要

2019年11月、ファミリーマートは人員削減計画を発表します。

本部社員の約1割にあたる800人の「希望退職」を実施することを内外に発表したのです。条件は勤続3年以上で、現場社員の場合40歳以上、本部社員の場合45歳以上の社員。人件費が割高になる中高齢以上の社員を削減し、人件費の圧縮を目指したものであることが伺えます。

対象となるのは3,000人以上いるとされ、希望退職での退職が確定すれば最高で2,000万円の退職金と再就職支援を受けられるとのこと。

客観的に言えば、希望退職(早期退職)の制度としてはかなり条件面は良さそうに感じます。

応募殺到という悲劇

この条件での希望退職の実施に対して、1,500人以上が応募しているようです。希望退職は応募に満たない場合も難しい対応を迫られますが、応募が殺到した場合も大変です。

筆者も1,500人規模のリストラ(希望退職や整理解雇)を経験しましたが、なかなか大変でした。

なぜ応募が殺到するのかと言えば、「会社に愛着がないから」の一言に尽きます。そして、会社側も経営難を盾に従業員に対してのリストラを実行している訳ですから、従業員への愛着がないことを自らの態度で示してしまいました。

本来、このようなリストラに移行する前に様々なステップを踏みます。それこそ経費削減から役員報酬の減額。経営管理体制の見直しなどなど・・・

これらのステップをどこまで行ったかは存じませんが、いきなり「希望退職の実施」という手段には出なかったと予測はできます。

恐らく、この段階で(あるいはそれ以前から)従業員と経営陣の関係性はこじれていたでしょう。でなければ、募集人数の約2倍という数の応募件数にはなるとは考えにくいからです。

会社が従業員を守ろうとしない以上、従業員が会社に貢献する義理はありません。会社に残って経営再建に協力するよりも、この条件で辞めた方が得。そう思われてしまうような環境があったというのが一番の問題点でしょう。

グループ分けという事実が何を意味するか

この状況下でファミリーマート側は従業員を4つのグループに分けていたとの情報も出回っています。応募して欲しい人材と引き留めたい人材を細かく分類していたようです。

こうなれば会社への不信感は一気に加速。本来退職を検討していなかった層も応募するという環境になるのは火を見るよりも明らかです。

さらに、希望退職に応募しても「適用否認」されることがアナウンスされます。「適用否認」された場合、退職金や転職支援サービスは受けられません。それでも辞めたいならどうぞということになりますが、ことここに来ては不信感を増幅させるだけの措置でしかありません。

もちろん、「希望退職」という制度ですので会社側は引き留めることもできますし適用否認が違法性を持つということではありません。グループ分けそのものが問題という訳でもありません。

しかしながら、これから会社を立て直すという段階で経営陣と従業員に深い溝が生じるのはマイナスでしかありません。

リストラは人件費の削減という意味ではない

人件費というのは企業経営にとって大きな負担となるのはわかります。経営を立て直す上でコストを削減していくのも定石です。

しかし、『人材』は「人件費」というコストを生み出すためのものではありません。人には無限の可能性があります。早期退職や整理解雇で失われた人材は今後会社にとって価値を生み出してくれることはありません。その可能性を自ら捨てる前に取るべき施策は何もなかったのでしょうか?

先ほども述べた通り、早期退職を実施する以前から様々な形で何らかの手を打っていたことと推察はいたします。

しかし、それが現場の心を動かすほどの効果はなかったのでしょう。

今回のリストラで一時的に状況が改善されたとしても、それは「大幅なマイナスの可能性が消えた」ことに過ぎません。セブンイレブンやローソンといったライバルに対してどのようなポジショニングで勝ちにいくのか。ファミリーマートというブランドの価値を向上させるためにどのような手段があるのか。真剣に策を実施していかなければ、今後追加でのリストラ策が出てくるだけでしょう。

リストラという言葉を「人件費の削減」程度に捉えているだけでは何も解決しません。リストラクチャリング。つまるところ「経営再建」をどれだけ実行していけるかという部分があまりにも希薄なまま「人件費」だけを攻撃目標にしているようにしか見えません。

本気で経営再建を目指しているのならば、早期退職に応募殺到などという悲劇は生じていなかったと思います。

これからの課題

今回の希望退職によって明らかになったのは「経営陣と従業員の相互不信感が増した」ということくらいでしょう。

今後早期退職が実施されたとして、残った従業員がどのくらいのパフォーマンスを発揮するかは完全に未知数となってしまいました。

また、応募しておきながら会社に結果的に残った従業員たちに対して会社側も不信感を抱くでしょう。事実、ダイヤモンドオンラインの記事中には「早期退職制度に応募した社員は忠誠心が低い奴らだ。降格を覚悟してもらう!」というセリフも出てきます。

本来望ましいのは、「早期退職は実施したけれども、残された人たちで『経営再建』を成し遂げよう!」という形で会社がまとまることです。この状況下では、恐らくそれは難しいでしょう。

早期退職を実施する前段階、実施中、実施後それぞれのフェーズで不信感が増大するように仕向けているようにしか思えません。

しかしながら、現状ではとにかく「早期退職の完遂」がスタート地点です。そして、着実に経営再建策を実施していく。ファミリーマートが再浮上するにはそれしかありません。

そのためにも、今回生じた「不信感」をどのように払拭するかというのは大変重要な課題となってしまいました。

このままでセブンイレブンやローソンに対抗するのは難しいでしょう。一致団結、スクラム体制こそが目指すべき姿ですがそのために越えなければいけない精神的なハードルは非常に高いものになってしまったのが残念なところ。

大きな疑問として、なぜ社内情報がマスメディアにリークされているのかというのもあります。

これも従業員側の不信感の現われでしょう。

本格的な再建を行うための代償としてはあまりにも大きなものを払わされている気がします。増して、深夜営業の見直しやフランチャイズ契約のあり方などでコンビニチェーンは世間的な風当たりが厳しい時代です。

従業員までも敵に回した形でリストラを実施することになってしまったのは、大きな痛手となるのではないでしょうか。

今後のファミリーマートの動向はどうなるか、非常に気がかりです。

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