ビニール傘

 透明な傘が開かれたときの、あの低くて重たい音のように、胸底で叫んで。

 裏返ったビニール傘の、しなった銀の骨みたく、喉を軋ませる。

 ろくにたたまれもせずに立てかけられた、真白なビニール傘みたく、冷や汗を垂らし。

 錆びて茶色く汚れても、無言でそれを受け入れる、すり減った先端と同じように、引きずられて。

 たとえ穴が空こうとも口は閉じ、銀が変に曲がっても、背筋はまっすぐ。

 そうして、傘立てに押し込まれるときのような、乱暴を強く望んで。

 枝葉や壁や、ほかの透明とぶつかったその瞬間にだけ、傘にも自我があるみたいに。

 名前なんて書かれない。数百円の価値すら持たず。

 色もなければ模様もないもの。

 忘れられるのが先か、捨てられるのが先か。

 それでも私は、ビニール傘のように、広げられるのを拒めずに。

                               (了)

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