ひとり
山のそばのため池をぐるりと囲う、遊歩道のベンチに腰かけて、夜空を見上げれば、ひとりです。
凍てつく水面を滑っていく寒風が目にしみて、硬い指先をきゅっと握ったら、ひとりです。
赤い星が息をするたびに前髪が揺れて、鼻をすすったら、ひとりです。
ショートブーツの先さえかゆく、唇を軽く開いて、息を真白い形へと変えれば、ひとりです。
背後のこずえが腰をふりふり、冬の虫が淡く鳴いて、歯を甘く噛んだら、ひとりです。
はねた透明で湿っている水際の雑草が、月の光で瞬いて、ぶるりと体が震えれば、ひとりです。
うつむいて、凍った白い息を呑み、垂らした長い横髪で寒夜を釣ったら、ひとりです。
ただひとりで、いるんです。
(了)
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