切手

 切手もなしに投函された手紙だけが、本物です。届かないから。決して渡らないから。届いた手紙は偽物です。届いてしまったから。渡ってしまったから。とめ、はね、はらい、仮名は小さく、漢字は大きく。そうやって、いくら丁寧に書いたとしても、偽物です。ポストに入れられるものはすべて虚飾なんです。届かぬ字だけが、真実です。

 切手は証明するんです。確かに提示するんです。切手の数だけ偽りは膨張し、破裂し、飛び散って。貼られた切手は、摩耗した心のざらざらです。これから湿る切手は、無知と弱さの気配です。そうして、使われずに捨てられ、しわと化した切手は、良心です。正確には、偽善です。裏の糊に、鼻先をそっと寄せてみれば、ほら、虚弱のにおい。

 買わず、貼らず。そうして書かれたものだけが、正しき染みになるんです。本当の真っ黒とは、そういうものなんです。

                               (了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?