泡雪

 夏に降る雪は、わずかです。綿雪は熱を横滑りし、細雪は斜めに落ちて。粒雪は温気にまみれ、べた雪は炎熱で焦げて。

 そして、泡雪なのが、Xです。泡雪は、夏陰のなかでさえ、溶けて、溶けて。夏霞に変えられてしまいます。ほかの白は、なんとか形を保っていても、泡雪は、色も輪郭も、失ってしまって。涼感さえ残せずに。影は日に呑まれ、もはや場所もなく。積もっていくものは、夕影によって、山吹と咲き、消えていったものは、瞬くことさえ許されず。暗色にもまれ。やってきた朝は、開いたものの存在を、淡く、くっきり、浮かび上がらせて。

 そうしてまた、雪が降ります。失せるのはただ、泡雪だけです。

                               (了)

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