成形

 プラットホームに立って仰向けば、白い罫線が降り注いで。奥行きのない水色が縁取る、のっぺりとした縦長の、横長の息遣いを、並行が挟む、挟む。骨のない輪郭はたなびき、色の奥はふさがれ、その手前が瞳に集り、音の痕が薄めていくのは、光と、においと。

 指の腹をこすり合わせながら、まばたきを二つ、空へと放れば、罫線は薄茶の格子へと変わり、無機質なものは鎖されていって。鉄心を通された縁。色彩の筋力は増し、表面が嘔吐する熱の、階調豊かな太い一条は、逆方向へ折れても折れても、しなやかであり続けて。

 格子に囚われて初めて、ショッピングモールはモールの口臭を放ち、電線をわし掴む鳩の足には、火が点って。見えない髪の無数の握手は、無害の体温を羽織り、跳ね回る靴底の舌打ちは、舌打ち未満の響きへと移ろう。捨てられた硬い音は、炭酸かコーヒーの嗚咽となり、拍子を取る鈍色の金切り声は、黄金色の知らせに。這い回るぶよぶよの無声には、二文字の歌詞がつき、耳元のモザイクは、色味ある粘性を帯びる。

 当てはめて、当てはめて、瞳の摩擦熱を凍らせて。角張った真っ黒で削り取って、成形して。胸を撫で下ろす。そうして、胸を撫で下ろしたことを、秒針のけいれんとともに、忘れていく。もう、撫で下ろさない。撫で下ろすことは、できない。

                               (了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?