血管の浮かび上がったその赤黒い手は、賛美という金槌を、いつだって振り上げ、振り上げて。絶えず透明を割りながら、けらりけらりと笑っています。その手の汗は、拍手という木槌の柄を、濡らすこともありました。嬉し泣きという、ゴムでできたハンマーの柄を、ぬるりとさせることだって。澄んだものは、それらに砕かれていきます。粉々になって、鈍く乱反射する光。輝きはすっかり、失われてしまいました。残された澄明は、わずかです。

 あの手も、この手も、どの指も、トンカチに絡みついています。そうして、片っ端から割って、割って。だけどその手は、気づいていません。それが凶器だということも、壊している事実さえ。手が二十あれば、十二は無意識です。六は分かっていながら、手放すことができません。残りはただのこぶしです。そうして、それらの手を支えている足たちは、気づかぬうちに、破片を踏んづけて。耳を澄ませば、舞い上がった音の名残が、さんさんと輝きを落とし。泥と砂と、小石に溺れながら、美しいものは死んでいきます。うつむけば、傷とひびで、残骸は濁り切っていて。

 この瞬間も、賛美の声は上がっています。拍手の残響は、いつまで経っても空気にこびりついて、取れません。涙の熱は、空気を泡立てて。そうして、手がまた二つ、増えるんです。簒奪された神聖と清澄。増えた二つが最初に握り締めていたものといえば、透明ではなく、鈍器でもなく、血肉です。飛び散ったかけらで裂けてえぐれた、臭味のする、肉塊なんです。

                               (了)

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