色彩

 透けている淡い黄緑をぼんやりと見つめながら、そっと手を伸ばす。縁ほど濃いその色は、確かに触れることができる。けれどまばたきをしたその瞬間、色はもうなくなっている。残っているのは、指先のしびれと、甘い感触だけで。

 うつむけば、今度はとろみのある薄黄色。それもやっぱり、輪郭ほど色彩が鮮やかで。背を曲げれば、確かに握ることができる。それでも、ほんの少し目を逸らしただけで、濃淡は消えてしまう。見渡せど見渡せど、色はない。残っているのは、手の腹に食い込んでいた、外縁のぬめりだけで。

 これまで、どれくらい見てきただろう。そうして何色、見えなくなっただろう。

 また、色に触れるときがくるんだろうか。

 あるいはこれっきり、見ることもないんだろうか。

 どちらにしても、この手の震えは。

                               (了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?