ゴムボール

 濃緑色のゴムボールを、どれだけえいやと放っても、返ってくるのは跳ねる音。ただそれだけで。決して届かず響くのは、深くて粘っこい影の、かすかな独り言だけで。駆け寄り拾い、今度はそこから。投げれば放物線が、かすかに口を開けて。それでも耳に触れるのは、濃緑色と、濃緑色と。

 助走をつけても、目線を天へと向けたって、決して球は届かずに。汗ばんでいく手のひらと、ゴムに食い込む爪の長さに、思わず前歯の裏を舐めて。そうしてうなだれたとき、前髪に視界を掻かれて、裂かれて。握ったまま、だらりと腕を垂らしたら、油の足りない関節の響きと、ゴムの重さで、指が震えて。うつむいたまま腕を振り上げたら、艶めく風が手の形となり、日の光はねじれ、土ぼこりが湿度を奪って。手首だけでボールを投げれば、破裂したのは、浮き出た骨。

 届かないと分かっていながら顔を上げれば、暗色は、つま先に絡んでいて。腰を曲げて腕を伸ばせば、湿ったゴムにまとわりついた、薄茶の唾液。薄茶の鼻水。

 握り締めるたびに、形は変わる。それでも球は届かない。何度やっても、向こうには。それでもこの手で、投げ続けてる。前歯で唇が、薄赤くなっても。

                               (了)

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