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特例法はいかにして性同一性障害当事者を守ってきたのか

これは、性同一性障害の歴史についての記事です。性同一性障害を略してGIDとも言います。私は、特例法を改正し維持を主張する「女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会」を応援している立場ですが、それがなぜか、特例法がいかに当事者を含めた弱者を守ってきたかを書いていきたいと思っています。
私は、性同一性障害は精神疾患の一つであり、治療の対象であると考えていて、だからこそ、特例法の保護が必要なのだという立場です。


特例法による戸籍変更者の人数

特例法による戸籍の性別変更者は日本でたった1万人弱です。
2004年に施行されてから19年、それでも総数が1万人に満たない、マイノリティ中のマイノリティと言っていいでしょう。
精神障害者の総数が500万人前後だと考えると、ごくごく少ない人々です。
手術をして、戸籍を変更する人数が男女含めて多い時には一年に千人弱、少ない時には百人前後で推移しています。
日本ではmtf(男性から女性に)よりもftm(女性から男性に)の方が多いです。
男性から女性になった戸籍変更者(戸変)は多く見積もっても5000人いないのです。
SNSではトランス女性当事者を名乗る人の方が目立ちますが、戸籍変更者の実態とはまるで異なります。

インターネット上での歴史

特例法以前のmtf当事者は「おかま」その後は「ニューハーフ」「おねえ」などと言われ、昼の仕事には就けず、夜の仕事に就く方も多かったと聞きます。
ちなみに「トランス女性(男性から女性になる)」「トランス男性(女性から男性になる)」の言い方は、トランスジェンダーについて使う言葉でした。トランスジェンダーというのは、もともとは、身体的な性別の違和感がないタイプの「男らしさ」「女らしさ」に違和感を持つ人たちの総称です。
性同一性障害の新しい呼び方だと思っている人も多く見られますが、性同一性障害とトランスジェンダーとは別の概念です。

ただ、今では、トランスジェンダーの中に、性同一性障害の人たちも含まれますし、性同一性障害の当事者が、自称としてトランスジェンダーを名乗ることを目にするのも増えました。

前回のnoteで書いたようにインターネット黎明期(1990年代後半)では、ネット上で、性同一性障害もアダルト、エロのくくりだったので、当事者がその偏見から脱するのは大変なことだったと思います。

認識を変えたドラマ

一般的な人の認識を大きく変えたのは、ドラマ「金八先生」の上戸彩さんが熱演した性同一性障害の役柄でしょう。これは当事者の虎井まさ衛さんに取材した骨太の脚本で、当時大人気でした。あまりのも迫真の演技だったために、上戸彩さんが女性らしいキャラクターや服装で売り出されていくのに違和感を感じた人も少なくない人です。ご本人も、鶴本直のイメージを重ねられてしまったが自分とは全然違うということをインタビューで語っているのを見たことがあります。
あの、ガラスのように脆い思春期の描写に共感し、自らの子供のころを重ね合わせて、心を揺さぶられた人も大勢いたでしょう。それも、
最近では、上野樹里さんの好演もあり、そうしたメディアからトランスジェンダーへのイメージを熟成させ、理解を深めてようとしてきた人も多いはずです。

社会に溶け込む当事者

アダルトからノンアダルトへイメージを変え、普通の、一般的な社会人として社会に受け入れられたい、と願ってきた性同一性障害の方たちは、特例法の縛りのもと、地道に歩んできた印象があります。
2004年以降で、戸籍ベースで女性の性犯罪加害者が増えたというデータもありません。
オリンピックの日本代表に元男性が戸籍を変えて女性として出場したということもありません。
特例法を守ってきた当事者は、その生き方を通して「元男性でも、女性は普通に女性」だし「元女性でも、男性は普通に男性」だし、でも、自分の体のことは自分が一番知っていて、手術をしたとしても、元の体も今の体も本当に変えられているわけじゃない、そういうことを痛いほど自覚してきた人たちが主流だとみています。少なくとも日本国内ではそうでした。

セルフID、性自認主義の登場

しかし、日本でも、海外でも「セルフID」「性自認主義」の思想が主流になり、いつしか、性別への身体違和を持たない、女性らしさ、男性らしさの「らしさ」の部分をトランスしたい「トランスジェンダー」のための運動が盛んになりました。
手術も、ホルモン治療もなしに、自分の意志だけでも、服装を変えるだけでも、法的に性別を変えることが、人権を尊重することである、という思想です。信じられないことですが「くたばれGID」とトランス活動家が言ってきたのです。また、日本のアカデミアはそのトランス活動家を支持してきました。最も有名な支持者としては、東大の清水晶子さんがいます。

米沢泉美さん、三橋順子さんなどの書いた2003年のトランスジェンダーの本。これにより「トランスジェンダリズム」思想が日本に輸入された。

性同一性障害の生活を守るために

そこで、私は性同一性障害、ひいてはトランスジェンダーの健康や、安全、幸福を大切に考えてはいるけれども、セルフIDにはどうしても反対であるという意見を何年も主張してきました。
セルフID思想の下では、特例法を廃止することが正しい。
しかし、性同一性障害の方にとっても、いわゆるマジョリティの生活のためには、特例法はあるべきだと思っているからです。
特例法の要件を守ることで、性同一性障害の方は世間からの信頼を勝ち取ってきましたし、その上で社会の混乱を防ぎ、偏見を減らしてきました。お互い、特例法の下で、なんの軋轢もなく、暮らすことができました。

今までは。

特例法を廃止すれば、社会での混乱は必至です。
身体違和を持たない、トランスジェンダーの中には、性的倒錯者もいます。そのため、彼らと混同され、性同一性障害当事者も冷ややかな目で見られてしまうこともないとは言い切れません。
セルフIDの世の中になってしまえば、誰でもが、好きなように法的に性別を変えられます。性犯罪者ですらも。
社民党の福島党首は「メール一本で性別変更できるように」求めていますし、公明党は、宗教的信念から2007年からセルフIDを支持していますし、共産党も立憲民主党もセルフIDを推進しようとしています。自民党では割れていて、稲田先生のようにセルフIDを推進する人、片山さつき先生のように、女性を守る議連を立ち上げ、女性の権利を守るために奔走してくださる方もおられます。

今後の特例法のあり方

性同一性障害当事者のほとんどは、特例法廃止も、手術要件緩和も、望んでいなかったと聞きます。
それが自分たちを守ることだと考えていて、だから、性同一性障害当事者が「性同一性障害特例法を守る会」を立ち上げ、女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会と連携しているのだろうと思います。

SNSでは露悪的な発言をするトランスジェンダー当事者も、性同一性障害の戸籍変更当事者もいます。当初とは違い、近年では問題行動や、性犯罪を行っている人もいます。
だから、女性が反発する気持ちも正直なところよくわかります。
そこで、女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会では、特例法における手術要件以外の要件を厳格化し、改正することで、世の中の混乱を防ぎつつ、不届き者や性犯罪者を排除し、性同一性障害の人々の権利を両立しようとしているように思います。医療的な要件を厳格に、明確に運用していくことで、性犯罪者が戸籍変更できないようにしていくことを議論していくべきだと思います。
性犯罪者はすべての人類の敵だからです。

連絡会では、女性スペースと女性スポーツの定義、特例法の戸籍を変更するための要件の追加(医師の診断の厳格化など)を考えています。

まとめ

世の中は、司法も含め、とにかくトランスジェンダーの権利を守るためには、特例法の要件を緩め、簡単に戸籍の性別を変えることが一番良いのだという流れです。
しかし、それは、当事者自身が望んでいないことなのだろうと思います。
性倒錯とはなんら関係ないトランスジェンダー当事者も、性同一性障害の当事者も、社会との軋轢を強めることを望んでいるとは思えません。

トランス活動家も、逆に性別変更自体の禁止を求める「女性の定義を守る会」を中心とした、X内での一部の女性たちも一様に特例法廃止を望んでいます。

ですが、私には、それが、子供、お年寄り、障害者、病人、女性など肉体的に弱い人たちを守ることにつながるとは思えないのです。
そして、やはり、性同一性障害という病気を否定することも、間違っていると思います。
一般的には、性同一性障害の方に思いをよせ、彼ら彼女らの健康で安全な幸せを願っている方がほとんどなのではないでしょうか。
私はよく考えた結果、特例法は廃止せず、それがGIDの権利を守り、かつ、社会の安全、安心を守ることにつながる。それが大事ではないかと思っています。
これからの未来のため、特例法を廃止した方がいいのか、わるいのか、判断していただきたく、この記事を書きました。



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