マガジンのカバー画像

文学フリマ c71

6
文学フリマの文章です。
運営しているクリエイター

#c71

ある自閉症スペクトラムの人の話

精神障害者手帳とわたしの話

 わたしは精神障害者手帳二級を取得しました。これは、友だちにも配るミニコミなので、その人たちに対してもカミングアウトすることです。

 カミングアウトはしてもいいししなくてもいいと思います。カミングアウトするのは、文学フリマに参加して書きたい話が自分のことで、一番最近大きな出来事だったのが、「わたしは精神的に困っている人なんだ」という発見を体験したことだったのでそれを

もっとみる

ブルー・ビーナス・ブルー

 ガソリンスタンドがあった。原付のハンドルを右に傾けて、そのまま車線を横切った。

 店員が「シャース」と声をかける。シャースって、なんだろう。よくわからない。いつも思うけれど、不思議だ。わたし自身も中学生のときは、部活終わりに、「アーッタ」と言っていた。「ありがとうございました」の略だったと思う。いつ発生するのかわからないが、集団には独特の挨拶が伝播する。

 灰色のコンクリートには油のシミや、

もっとみる

「頭蓋骨を割られたんだよ、それでも」と彼女は

「頭蓋骨を割られたんだよ、それでも」

と彼女は言い、息を吐いて、言葉を区切った。

 わたしの名前は新しい。ここでは新しい名前で呼ばれる。みんな、お互いの古い名前を知らない。わたしはただ耳になっている。わたしは食事をしようとしているが、手はぶるぶると震えていて、箸をうまく握れない。

「それでも、わたしは逃げなかったんだよ、だけどね」

と彼女はまた言葉を続けた。

 テレビで朝のニュースが流れ

もっとみる