ブルー・ビーナス・ブルー

 ガソリンスタンドがあった。原付のハンドルを右に傾けて、そのまま車線を横切った。

 店員が「シャース」と声をかける。シャースって、なんだろう。よくわからない。いつも思うけれど、不思議だ。わたし自身も中学生のときは、部活終わりに、「アーッタ」と言っていた。「ありがとうございました」の略だったと思う。いつ発生するのかわからないが、集団には独特の挨拶が伝播する。

 灰色のコンクリートには油のシミや、タイヤの跡が残っている。雨の跡も。空気が熱くて、風が吹いているから、からだの表面は冷めているのに、汗をかいている。そういえば喉が痛かった。腰もだるい。しゃべりすぎ、働きすぎたのかと思っていたが、風邪を引いたのかもしれなかった。

「レギュラー満タンで」と言って、鍵を少し回すと、エンジンが切れて、車体が沈んだ。かぽっという音が鳴って、シートが持ち上がった。それを引っ張って上に持ち上げると、タンクの蓋が現れた。

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