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ブルー・ビーナス・ブルー
ガソリンスタンドがあった。原付のハンドルを右に傾けて、そのまま車線を横切った。
店員が「シャース」と声をかける。シャースって、なんだろう。よくわからない。いつも思うけれど、不思議だ。わたし自身も中学生のときは、部活終わりに、「アーッタ」と言っていた。「ありがとうございました」の略だったと思う。いつ発生するのかわからないが、集団には独特の挨拶が伝播する。
灰色のコンクリートには油のシミや、
「頭蓋骨を割られたんだよ、それでも」と彼女は
「頭蓋骨を割られたんだよ、それでも」
と彼女は言い、息を吐いて、言葉を区切った。
わたしの名前は新しい。ここでは新しい名前で呼ばれる。みんな、お互いの古い名前を知らない。わたしはただ耳になっている。わたしは食事をしようとしているが、手はぶるぶると震えていて、箸をうまく握れない。
「それでも、わたしは逃げなかったんだよ、だけどね」
と彼女はまた言葉を続けた。
テレビで朝のニュースが流れ
満ち足りたわたしの空洞
わたしには空洞がある。わたしの中は空っぽだ。空っぽの中に感情が ふわふわと飛び交っている。怒りはとげの形をして内部を引っ掻くし、 悲しみは内部をかびさせる。外界が、影響して、わたしの中身は振動する。空洞があるから、大きな音が鳴る。音に怯えて、平静を保てないことが良くある。
わたしの空洞の名前は、「自閉症スペクトラム」だ。わたしの空洞の中には、もっと良いものも含まれて