読書酔い

"読書酔い"とは何か。きっと正式にそんな言葉はない。しかし、私にとってはそうとしか言いようのない現象が起こる。

読書をしていると、書かれている描写が映像になったり音になったりして、五感に訴えかけてくることが多々ある。実際にその場にいるかのような感覚をがするのだ。

その結果、はっと気づいて現実に目を向ければ、もう既に気分が悪くなっている。

これを初めて体験したのは小学校1年生のときだった。給食の準備をしているときだ。35人ほどいるクラスメイト全員が給食を受け取るには少々時間がかかるため、私はそのあいだ、たまに本を読んで待つことがあった。

集中して読み始めると、周りの音が聞こえなくなる。書かれている世界の音しか聞こえなくなるのだ。その時もそういう状況だった。先生の声で気づいて現実に引き戻されると、もう気分が悪くなっていた。

私は先生に体調が悪いことを訴えた。すると先生は、「とりあえず給食食べて様子見て、それでもしんどかったら保健室に行こう」と提案してくれた。給食は時間が限られているので、先生としては多少体調が悪くても、後のことを考えると給食を食べておいてほしかったのだと今になって思う。

そして私は、先生の言う通り給食を食べた。すると、そのうち体調が改善した。


今日、電車に乗っているときも同じ現象が起きた。ジェーン・オースティンの「高慢と偏見」を読んでいて、気づいたら気分が悪くなっていた。

電車で本を読むこと自体が酔いやすいんじゃないか、と思うかもしれない。実際、その可能性は少なくない。しかし、座って本を読んでいるときにも同様に気分の悪くなるときはあるのだ。

私はこういう仮説を立てた。

乗り物酔いは、乗り物の不規則な発進や加速により、三半規管が混乱して起こる。特に、テーマパークの"実際にはあまり落ちていないのに高所から落ちたように見せる映像型アトラクション"ではこの現象が起こりやすい。

つまり、"実際に身体が受けた衝撃と視覚からの情報の不一致"によって起こると言われている。

それならば、私の読書による気分の悪さも同じことが言える。

私の脳は本によって、実際に異世界や異国など、様々な知らない場所の映像を見せられている。ときには歩き、ときにはどこかから激しく落下し、またときには、乗り物に乗る。しかし、実際に体はその"身体的感覚"を受けてないので、三半規管と脳が混乱する。

私の"読書酔い"は、こういうメカニズムによって起こっているのではないだろうか。

私には医学的知識はないし、自分の身に起こっていることを理解しようと仮説を立てたにすぎない。

しかし、こういった現象が起こる人間が存在するのだということを、知っていてくれるだけでも、ありがたい。

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