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自治体向けPHR・データ利用ツールキットVer.0公開!

自治体視点でのツールキット

感染症対策や高齢化社会への対応といった観点からPHRPersonal Health Record)の導入を中心とした、ヘルスケア・データの利活用への関心が世界的に高まってきています。ただし、その実装の成功事例は国際的に見てもごくわずかです。

私たちヘルスケア・データ政策プロジェクトでは、PHRに関する取り組みを行う自治体・企業とともに、テクノロジー実装の最前線である自治体向けツールキット「Toolkit for Personal Health Record and Data Use by Municipalities」を作成し、公開しました。自治体視点でのツールとしては、先進的な試みとなります。

https://www3.weforum.org/docs/WEF_Toolkit_for_Personal_Health_Records_and_Data_Use_by_Municipalities_2022.pdf

本ツールキットは、個人の人権・データホルダーにとっての合理性・公共の利益の三者のバランスに配慮したデータ利活用コンセプト「APPA(Authorized Public Purpose Access(APPA)」の鍵となる官民連携の支援としても位置付けられています。

本ツールキットの狙いは以下です。

◆ 自治体におけるPHRの実装、データ活用に際する基本原則チェック項目を示し、実装・普及を推進する
◆ 企業への発注時の参考とすることで、自治体間の連携を容易にし、ベンダーロックインを避けるとともに、導入・維持コストを削減する
◆ 企業において適切なデータガバナンスを実現し、ビジネス上の予測可能性を高める
◆ 市民のWell & Healthy Ageingを実現し、プライバシー等の侵害リスクを最小化する

Toolkit for Personal Health Record and Data Use by Municipalities

基本原則

ツールキットで提示した6つの基本原則は、スマートシティ五原則などを踏まえ、特にヘルスケア分野において留意すべき点を加えています。

(1)個人の自律・本人への利益
データの利活用において重要なのは、データ主体である各個人(市民)にとって利益があるかということです。個人の自律を尊重するため、本人の関与等を可能にする適切な制度を設ける必要があります。

(2)透明性・プライバシー
関連する法規やルールに従うことが前提です。個人情報保護法制に従い、プライバシーへの十分な配慮やセキュリティ対策を行ったうえで、意思決定過程や運用に際して透明性を確保し、可能な限りプライバシーリスクの潜在的な影響や脅威を評価しておきます。

(3)相互運用性・オープン性
自治体は公共的な性質を有しています。データの利活用状況やその結果に関するオープン性の担保と、システム間において様々なデータに接続することが可能となる相互運用性を担保したエコシステムを実現します。

(4)公平性・包摂性
健康増進はあらゆる市民に共通の課題です。あらゆる人材が能力を最大限に発揮し、やりがいを感じられるようにすることで、誰一人取り残さない社会を実現します。

(5)価値実現・社会的正義
本人の利益の実現が第一にしたうえで、データの二次利用を行う場合(あるいは、最初から第三者の利益のためにデータを収集し活用する場合)には、実現できる価値が社会的正義にかなったものであることを確認します。

(6)持続可能性
自治体における運用面・財政面の両面から、持続可能でより効果的・効率的な事業であることを確認し、実装することが重要です。また自然災害や不慮の事故、情報セキュリティなどによる障害が発生した際も、最低限の機能を維持しつつ早期に回復できる能力を確保します。

ベンチマークのためのチェックリスト

6つの基本原則を実現するために、各原則をさらに細分化したチェックリストを作成しました。

(1)個人の自律・本人への利益
◆本人確認は適切にできているか
◆本人の健康上その他の利益が明確であるか
◆(第三者提供に即して)本人への利益還元(ポイント等)の仕組みがあるか
◆本人によるデータ管理が可能か(データポータビリティがあるか)
◆本人又はデータ管理者が本人の同意状況が確認できるツールが有るか
◆本人による異議申し立て等の窓口があるか

(2)透明性・プライバシー
◆データの利用目的が十分に明確に示されているか
◆データ収集は適正な方法でなされているか
◆データの管理主体(コントローラー)とその管理方法が明確に示されているか
◆データ利用に際しての責任の所在は明確か
◆セキュリティ対策は適切になされているか
◆(匿名加工をする場合)適切な加工がなされているか
◆(AIを用いる場合)AIによる判断基準は明確に示されているか
◆その他プライバシー関連法規の遵守状況が明確か

(3)相互運用性・オープン性
◆円滑なデータ交換・活用を担保できるような標準規格の利用が行われているか
◆API連携が可能でデータの移行が容易である等、自治体を超えた相互運用が可能となっているか
◆(データの公益目的での二次利用の場合)データ利用の結果に関して公開等、適切な社会還元がなされるか
◆(匿名加工の上で)データのオープン化がなされているか

(4)公平性・包摂性
◆特定のデバイスを必要とするサービスの場合、そのデバイスを持たない/使えない市民への配慮がなされているか
◆ユニバーサルデザインとなるような適切な配慮を含めUI/UXが適切にデザインされているか
◆本人に対するリコメンデーション等によって、不公平な取り扱いがなされないか

(5)価値実現・社会的正義
◆データの質・真正性の担保ができているか
◆(本人以外への価値実現がなされる場合)どのような価値実現がなされるかが明確に示されており、それが妥当な目的か
◆科学的に根拠が示された介入が予定されているか。
◆価値実現に即して不利益が生じる場合への適切な配慮がなされているか
◆価値実現や不利益に関して第三者からの検証が可能か
◆同意によらない第三者によるデータアクセスがなされる場合は、社会的合意のある公益目的等に限定されているか

(6)持続可能性
◆災害時やパンデミック時など、緊急時も含めてシステムの最低限の機能の維持が可能か(レジリエンスがあるか)
◆中長期的に持続可能な(補助金頼みではない)モデルとなっているか
◆自治体の業務負荷が適切か
◆(官民連携に際して)民間側のインセンティブへの配慮がなされているか◆プログラム医療機器やオンライン診療等、医療関連の規制との関連で妥当な設計となっているか

本チェックリストの利用に際しては、実装地の法律・条例・関連ガイドライン等のルールへの準拠も同時に必要となります。また、本チェックリストは、事業企画書の採点・評価、倫理審査委員会や個人情報審査会といった第三者機関による評価に用いることも想定しています。

実例を踏まえたTips、Q&A

ツールキットを実際に利活用した例を提示することも重要です。こうした実例は、行政目的ということで自治体にはどこまでの行為が許容されているのか、企業がステークホルダーとして参加しやすい環境をどのように構築するかといった問題に取り組む上でのヒントになります。

実例から得られた Tips・Q&Aについては、今後ツールキットを実際に運用しながら充実させていき、バージョンアップをしていきます。詳しい内容に関しては今後ご紹介していく予定です。

官民連携によるバージョンアップへ

官民連携によるヘルスケア・データマネジメントに関しては、今も世界中でよりよい方法が模索されています。本ツールキットでは、その方法の一助となるべく、自治体レベルでPHRを適切に実装するためのポイントを提示しました。

特に、自治体の公的性質やユーザーの利便性をからみると、PHRのシステムが協働できない形で各地に立ち上がることは望ましくありません。自治体間の連携という点では、本基本原則・チェックリストが掲げている相互運用性がキーポイントとなります。私たちは、相互運用性を踏まえた実装が進むことで、自治体ひいては世界における公衆衛生の向上など、重要な価値実現がなされることに期待しています。

なお、本ツールキットで提示したフレームワークや論点に関しては、今後もワークショップ等を通じて更なる深掘り・議論を進める予定です。私たちが主催する「PHRの実装・ヘルスケア・データの利活用に関する自治体向けワークショップ」では、専門家や自治体の方々とツールキットの内容についてさまざまな議論をしています。第2回のワークショップの記事もございますので、そちらもあわせてご覧ください。


本チェックリストの個別項目やTipsなどを加えたVer1.0に関しては、引き続き官民で検討と議論を進めバージョンアップをしたものを公開予定です。

著者:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 佐々木誠矢・青山龍平(インターン)




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