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GTGS 21 -- Day 2(Part I)

▼GTGS 1日目を取材した記事はこちら

■テクノロジーガバナンスの展望(2)

GTGS2日目のスタートを切るのは4名の共同議長が登壇するこのセッションです。

登壇者(敬称略):
アリス・ガスト(英国、インペリアル・カレッジ・ロンドン学長)
エリザベス・ロッシエロ(ケニア、AZA 最高経営責任者兼創設者)
ジム・ヘーゲマン・スナベ(ドイツ、シーメンス監査役会会長)
シャラン・バロー(ベルギー、国際労働組合総連合(ITUC)書記長)

ITUC・バロー書記長

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世界156カ国、延べ1億7,428万人の労働者を代表する国際労働組合総連合の書記長を務めるバロー氏。「楽観的にみていることは?」との問いに対し「楽観的になるのは難しい」とバッサリと一刀両断。インクルージョンなど社会契約が前向きに変化していることを評価しつつ、世界的な労働市場の60%が最低賃金も社会保障もないインフォーマルであるという「壊れた」状況であることを指摘し、「前向きな変化は一部にとどまる」「ダウンサイドを直視すべき」と強く訴えました。

技術的なガバナンスがうまくいけば、私は楽観的になれます。世界の約40%がオンラインにエンゲージできない状況に対し、課税、競争政策、労働者の権利へのアクセスを正しく実装することができれば、前に進むことができます

独占・寡占が横行し、政府や大企業などへのトラストが損なわれた状況を放置すれば「私たちはすべてを失う」と警告。民主主義を救うためには、いかにすべての企業を平等に競わせるか、モラルや倫理をどう設定するか、税などのルールにいかに合意するか、またテクノロジーガバナンスについても「パリ協定」のようなグローバルな合意が必要だと主張しました。

シーメンス・スナベ監査役会会長

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インテリジェントなテクノロジーを、私たちはインテリジェントに使いこなせてない――シーメンスのスナべ会長は、持続可能なエネルギー利用、生涯教育、予防医学などの社会問題を既存のテクノロジーで解決できる人類の能力とスピードに触れつつ、データ・モノポリーが事態の深刻化を招いていると指摘。「リアルな日常において、盗むなかれというのは人間社会のファンダメンタルだが、同じモラルがデジタル社会では通用していない」と警告を発しました。また400,000人の雇用を行うグローバル企業として「仕事を守るのではなく、人間を守る」と明言、再教育に注力していることを共有しました。

AZA・ロッシエロCEO

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デジタルファイナンスの最前線で活動し、アフリカの金融システム事業のイノベーションを代表するロッシエロ氏は、今を「イコライザー(Equalizer)」の時代と表現しました。ケニアやナイジェリアのようにVISAを取得したり航空費を負担したりすることが難しい企業にとってもその可能性を広げ、アクセスの平等化を進められる可能性を指摘。こうしたビジネスカルチャーへの変化に大きな期待を寄せました。

インペリアル・カレッジ・ロンドン ガスト学長

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ガスト学長は、テクノロジーによって教育現場がより広いリーチを獲得し、フィジカル・リモートの良さを生かすことで教育の幅が広がり、プレスキル・リスキルを含めた生涯学習に大きな道筋が開かれていることを指摘。「フリップド・クラスルーム」の可能性と、コミュニティの重要性を訴求しました。またガバナンスという観点では、生徒だけでなく社会を教育できる「パブリックエデュケーション」がますます重要になると指摘しました。



■データ宝庫としてのウェアラブル【エーザイ・内藤CEO登壇】

パンデミックで健康管理に関するウェアラブルの利用は35%以上増加し、膨大なヘルスケアデータを生成しました。これらをいかに活用していくべきか?活用にあたって社会からのトラストをいかに担保していくべきか?

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エーザイ株式会社の内藤CEOは、パンデミックの状況改善にはPCR検査やワクチン接種に加え、コミュニティ全体の健康レベルの上昇が不可欠であるとを指摘。加えて「製薬会社によるサービス提供の対象が、患者から一般国民へと移行している」と明言。この顧客スケールの大シフトへ迅速に対応するにはテクノロジーの活用が必須であり、iOT, DX,VRなど様々な技術を活かしたソリューションパッケージに取り組む姿勢を共有すると同時に、取り組みに対するトラスト構築には人間に対するエンパシー(共感)が重要であることを強調しました。また「ウェアラブルはタイムホライゾンを変える」とし、データが「あなたの未来像」を示す時代の到来とそのインパクトを語りました。

指輪型ウェアラブル開発を手がけるOura Ring社CEOのHarpreet Singh Rai氏は、個人の同意を得たうえで7万人の情報収集を行った自社の事例を紹介。EU規則の遵守や、ツールや枠組みの明示でトラストの構築が不可欠であったとする一方、「多くの人が参加しない限り、データの宝箱も無意味」と述べました。

生物工学研究所のSage Bionetworks代表、Lara Mangravite氏は「モニタリングから治療まで全過程のデータをまとめるには、当然、複数の企業の協力と連携が必須」と指摘。コミュニティ全体が研究に参画する必要性を訴求しました。



■信頼に値するテクノロジー構築と「標準化」【日立・鈴木CTO登壇!】

テクノロジーをTrustworthyな(信頼に値する)ものにするためには、何ができるのかー 日本時間4月7日に行われたこのセッションでは、GTGSのあらゆるセッションでキーワードとして取り上げられる「トラスト」をキーワードに、各登壇者の様々なバックグラウンドが反映された濃密な議論となりました。

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議論の中心となったのは、各登壇者がトラストについてどう考え、どのような取り組みを進めているのかという点でした。

日立製作所のCTOである鈴木教洋氏は、トラストには様々な要素が関わるとし、顧客、学術界、C4IRに参加する企業など様々なステイクホルダーと関わり、試行錯誤を通じて未来への知見を共に蓄積するよう取り組んでいると述べました。日立、経済産業省、当センターが共同で執筆した白書にも言及し、Data Free Flow with Trust(信頼ある自由なデータ流通)において必要なのは、テクノロジーが信頼に値するというエビデンスを外部にも理解できる形でまとめ、アクセスできるようにすることだと主張。その取り組みの一環としてAI開発などにおける倫理原則を掲げる「標準化」を進めていることを共有しました。ガバナンスはイノベーションを止めるものではなく、イノベーションを支え、加速させるものであると強調していた点が印象的でした。

機能と安全性の認証企業ULのCEOであるJennifer Scanlon氏は、テクノロジーは面白く収益を生むものであると同時に、色々な問題を内包していることを指摘。127年の長い歴史を持つ同社ではリスク精査を踏まえた顧客とのトラスト醸成に力を入れていることを明らかにしました。さらにデジタルトラスト構築のためには、開発のライフサイクル全体での意識づけだけはなく、消費者が各企業の「標準化」について簡単に知り、区別することができる格付けの必要性を主張しました。

続いてインパクト投資企業Omidyar NetworkのWafa Ben-Hassine氏は、暗号化されたセキュリティをどれだけ効率よく達成できるかという点でトラストワージネスが大事だと強調しました。今こそ「責任あるテクノロジー」の推進について議論する良いタイミングであると述べ、パワーを持っている側が必ずしもきちんと運営しているわけではないと課題を提起。テクノロジーには意図せぬ形で有害なイベントを生み出すことがあると語り、特に白人男性を中心に物事が進んでいるカリフォルニアのテック業界がもたらす無意識の結果にも警鐘を鳴らしました。

コンサルティング会社KPMGのTom Koehler氏は、トラスト醸成は最も難しく重いテーマとし、そのインパクトを十分に考慮せずにテクノロジーが普及していることに懸念を示しました。もはや「何もしない」コストのほうが高くなりつつある現在、生産フェーズだけではなく、AIやIOTなど複雑化している技術全体を俯瞰し、イノベーションの設計段階から信頼性を担保するTrust By Designが必要であると強調しました。

セッションは「1年後また議論するとしたら変わっていてほしいポイント」についての議論で締めくくられました。Jennifer Scanlon氏は「標準化」を挙げ、日立が倫理原則を公開したことを素晴らしい第一歩であると評価。Tom Koehler氏は様々な企業が「標準化」を進める中で、更にそれをLeanな(均整のとれた)ものにしなければならないと述べ、リスクをよりよく管理するためにどうすればよいのかという議論をしたいとの期待を述べました。

▼日立、経済産業省、当センターの共著による白書はこちら

▼DFFT(Data Free Flow with Trust): 信頼性のある自由なデータ流通についてはこちら



■デジタル決済:ビジョンの実現【金融庁・永見野長官登壇!】

軽々と国境を越えるデジタルサービス。デジタル決済による機会を最大化するには――グローバルに加速する「デジタル決済」の今と未来を議論するセッションが開催されました。

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米州開発銀行研究所のIrene Arias CEOは、デジタル決済におけるテクノロジーの運用について、決済インフラを促進し、「インターオペラビリティ(相互運用性)」を担保するテクノロジーが必要となると説明。VisaのDemetrios Marantis上級副社長も「一つの規則、決済システムまたはネットワークしかないというわけにはいかない」と説明し、デジタルエコシステムを繁栄させ、中小企業に平等なチャンスを与えるためにはインターオペラビリティが不可欠であると強調しました。

羅漢堂のLong Chen取締役は、中国において、空間と時間の制限を無くしたEコマースプラットフォームは中小企業に大きな機会を提供したと紹介。政府だけでなく官民連携によるデジタル決済環境の提供が重要だと指摘しました。

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金融庁の氷見野長官は、日銀がデジタル通貨の発行に関する実証実験を行っており、日本政府はデジタル決済のための環境整備を進めていると言及。日銀と財務省は、G20でより早く、より安く、より透明性と包摂性の高い国境を越えた決済へのコミットをしていると表明しました。

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▼GTGS Day 2(Part II)はこちら

執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
ティルグナー順子
大原有貴(インターン)

ヘルスケアデータ政策チーム 井潟瑞希(インターン)

アジャイルガバナンスチーム 佐藤萌加(インターン)

データガバナンスチーム Shan Wang(インターン)

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