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【開催報告】第5回「マルチステークホルダーでの合意形成」

「マルチステークホルダーでの合意形成」と題した第5回は、パーパスモデルと韓国の電子政府の事例から、マルチステークホルダーで合意形成を行いながらアジャイルガバナンスを推進するための学びを深めました。

アジャイルガバナンスラボの目的や概要については、こちらを参照ください。

開催概要

アジャイルガバナンスラボ
第5回「マルチステークホルダーでの合意形成」
2022年12月14日@オンライン

登壇者

<講師>
吉備 友理恵(一般社団法人Future Center Alliance Japan / 株式会社日建設計イノベーションセンター)
廉 宗淳(e-Corporation.JP 代表 / 大阪府特別参与 / 明治大学大学院兼任講師)

<モデレーター>
隅屋輝佳(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター)

パーパスモデルでみる共創プロジェクトのコミュニケーション

吉備氏からは「パーパスモデルでみる共創プロジェクトのコミュニケーション」というテーマでお話しいただきました。

パーパスモデル:共通目的と各ステークホルダーとの相関図

パーパスモデルとは、下図に示すように1つのプロジェクトのパーパス(共通目的)を中心に置きながら、各ステークホルダーがどのような想いと役割で関わっているか、プロジェクトとステークホルダーの関係性を可視化するモデルです。

吉備氏投影資料より

このモデルの特徴は「皆で目指したい目的(共通目的)」と「各ステークホルダーの目的」の複数の目的(パーパス)の並走を可能にすることです。それぞれの目的を可視化することにより、価値創出に向けた協創が生まれやすくなると吉備氏は強調しました。

パーパスモデルの用途は主に ①時系列で変化を見る、②比較して違いを伝える、③現状把握する・認識を合わせる、④共通点を見つける、の4つとなります。

パーパスモデルの実践事例と気づき

国内での実践事例として「柏の葉リビングラボ」と「ひがいけポンド」の事例をご紹介いただきました。

「柏の葉リビングラボ」では、多様なステークホルダーが集まったプロジェクトのキックオフでパーパスモデルが使用されました。同リビングラボは、市民を中心に、企業や大学等の研究機関、行政機関、その他連携組織が参加して街の課題やありたい姿について議論する場です。各ステークホルダーがプロジェクト全体のパーパスと共に、自身がプロジェクトへ提供できる価値や他のステークホルダーに期待する内容を共有・議論することによって、参加者の意見が統合された共通のパーパスモデルが作成されました。

プロジェクトに関わる全員がパーパスモデルを作成することで、全体像が俯瞰できるとともに、優先順位をつけて最初の一歩を決めやすくなった、また、それぞれの想いを話すきっかけになり参加者間の関係性を深めることができたとのことです。

吉備氏投影資料より

「ひがいけポンド」は、東池袋にある再開発地区を活用した地域コミュニティ開発において、プロジェクト活動の振り返りにパーパスモデルを使用しながら成果を可視化し、次のアクションを検討したというの実践例です。ここではメンバーがプロジェクトを振り返り、発足時から現在に至るまでの各フェーズにおけるパーパスモデルを時系列順に作成、その後プロジェクト関係者への内容を説明、調整を通じて、パーパスモデルをコミュニケーションのツールとして活用しました。結果として統合されたパーパスモデルが多角的な視点(時系列での視点、関係者それぞれの視点)の反映となり、活動成果や方向性についての対外発信につながりました。

吉備氏投影資料より

吉備氏は、パーパスモデルの利点として、共創プロジェクトの進め方や成果を簡潔に把握できることを挙げました。最初は自社目線での目的で関わっていた企業が、プロジェクトを進める上で自然と共通ゴールを目指すようになったという意識変容の可視化にもつながったといいます。さらにパーパスモデルを通じてステークホルダーを可視化することは、不足しているステークホルダーや潜在力のあるステークホルダーの洗い出しにもつながります。

最後に吉備氏は、パーパスモデルとアジャイルガバナンスの接点として「共創プロジェクトとして政策を捉えると?」「アジャイルガバナンスのプロセスをモデルで可視化すると?」「どのようなステークホルダーがそろうとうまくいくのか?」といった疑問を会場に投げかけ、アジャイルガバナンスをさらに昇華させていく可能性を示唆しました。

韓国の電子政府関連合意形成

廉宗淳氏からは「韓国の電子政府関連合意形成」というテーマで、韓国の電子政府によるアジャイルガバナンスの取り組みについてお話いただきました。

韓国は、法律体系として電子政府を取り入れたため、「電子政府法」というものが存在します。電子政府法とは、電子政府事業に関わる複数の組織に対して、組織の設立根拠や役割などを法律で定めるものです。また電子政府法の中には各組織の役割が具体的に定義されているものの、最も重要なのは国家情報化戦略の総元締めとしてグランドデザインを作成、実践、チェック、フォローするシンクタンクであることだと廉氏は言います。

韓国で電子政府が取り入れられた背景には、各省庁に情報部門がなかったため、政府機関の情報システム部門を一挙統合し、「情報資源管理院」にIT専門家を集める必要がありました。結果として、住民票の発行申請や大学の卒業証明書の申請、引っ越しの手続きなどがEgovウェブサイトの初期画面上に全て揃っている環境を構築できたと廉氏は言います。クレジットカード等のスキミング被害にあう人が多いという課題があったものの、外務省とクレジットカード会社が行政情報共通利用センターで連携し、例えば申告者が出国した時点で海外で使用するクレジットカードが利用できるようになり、帰国した時点で海外用クレジットカードが利用できなくなる自動システムを構築したことなどが共有されました。

電子政府の組織体系

そして電子政府の組織体系として、システムやデータ連携のための「情報資源管理院」が設置され、住民票や税、機関システムを一体化し、自治体向けにサービスを提供する場として「地域情報開発院」が設置されました。

廉宗淳氏投影資料より

さらに「ソフトウェア産業協会」と経済産業省が協力し、ファンクションポイント制度を導入しました。ファンクションポイント制度とは、ソフトウェア開発に必要なコストを計算する際に指標となる係数(帳票の数や使用するソフトウェア言語など)の基準を設定した制度になります。これにより、ソフトウェア開発の際に必要になる帳票の数や使用するソフトウェア言語といった様々な係数を計算システムに入力すると、ソフトウェア開発に必要な見積金額が自動で計算されるようになり、円滑な合意形成が実現したそうです。ちなみに日本は都道府県別に単価が決められているため、基準がバラバラであり、円滑な合意形成が難しい状況にあります。

また「情報システム監査法人」を立ち上げ、政府がプロジェクトを始めると「全体の予算」と「システム監査に任せる予算」を分けて管理できるような組織体系を構築したそうです。

徹底的なガバナンス構築に向けて

韓国における電子政府の設置・運営にあたり、各組織の利害関係を調整するための方法について2点共有いただきました。

1点目は、電子政府マニュアルです。
これは、事業推進をする際の手順がまとめられたものになります。

廉宗淳氏投影資料より

業務を始める際にはBPR(Business Process Reengineering)を行うことが定められています。つまり、今まで取り組んでいた仕事をこのまま続けるのか、または新しい技術を活用してプロセスを変更するかを決め、TO BE(理想)を描きます。そして、ISP(Information Strategic Planning)という、描いたTO BEを実現するための情報戦略計画を立てます。そして、ISPが立てられると、機能点数を用いた正確な工数算定が行われ、正確な入札額が算出できるため、全額入札することを前提に入札プロセスが進行します。このプロセスがあるため、韓国における入札では技術評価点が入札を決める最大のポイントになります。そして、技術評価をおこなうにあたっては電子政府の情報資源管理院や調達庁にある有識者データベースに登録されている有識者に一斉にショートメッセージを送り、手上げ制で20名ほどを一か所に集めて、入札を行う製品・サービスの入札審査・技術評価を行います。これが入札審査過程の透明性の担保にもつながると廉氏は言います。

2点目は、開発方法論です。

廉宗淳氏投影資料より

具体的には、システム開発方法論によるプロジェクト管理を行うべく、情報システム監査制度を立ち上げ、第三者によるプロジェクト全体過程への関与を可能にしたそうです。この背景には、国家プロジェクトでもベンダーによって設計書やプロセスが異なるという課題意識がありました。情報システム監査制度によって国が決めたプロセスに従ってプロジェクトを進めることで、要件定義や入札、契約といった各フェーズごとに第三者の監査が入ることができるようになり、透明性の高いプロジェクト管理に繋がるのだと廉氏は言います。

最後に、電子政府は国の未来がかかっている重要なことであり、効果的に合意形成することが重要であるとの指摘がありました。

ボトムアップアプローチとトップダウンアプローチ

吉備氏からはパーパスモデルという、各ステークホルダーが1つのパーパスに向けて協働するボトムアップアプローチについてお話をいただき、廉宗氏からは政府が効率よく合意形成するための電子政府の設置というトップダウンアプローチでのガバナンス方法についてお話をいただきました。

アジャイルガバナンスを推進する上では、まさにマルチステークホルダーが1つのパーパスに向けてボトムアップ的に協働し合うことと、トップダウン的にガバナンスの標準化を図ることの両方のアプローチが重要だという気づきがありました。ありがとうございました!

執筆者
Author:俵陵輔、甲谷勇平(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター)
Contributors:ティルグナー順子(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 広報)、隅屋輝佳


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