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ダボス・アジェンダ2021 -- Day 4 (Part I)

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターでは、ダボス・アジェンダ(1月25日 - 29日)の会期中、4月6-7日に開催されるグローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット(GTGS)につながる議論をnote発信しています。

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■Advancing Digital Content Safety

今月6日にトランプ前大統領の支持者が暴徒化し連邦議会議事堂に乱入した事件は、ソーシャルメディアがもたらす危険を世界に知らしめました。パンデミックからの脱却に向けて期待されるワクチンは、フェイクニュースや陰謀論の格好の的となっています。インターネットにおける「安全なコンテンツ」のためのこのセッションでは、責任の境界線を巡ってさまざまな議論が展開されました。

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アラブ首長国連邦・地域社会開発省のHessa Bint Eisa Buhumaid大臣は、悪質なコメントを違法化し、被害者の権利を守るための法律などガバナンスの整備が最優先だと述べ、緊急対応チームの設置やサイバーセキュリティの強化を通じた悪質コンテンツの拡散をいち早く防ぐ活動と、国民への周知活動を紹介しました。また施行されたばかりの「デジタル・ウェルビーイング・プログラム」についても触れ、社会的に脆弱なグループを保護する仕組みなど国をあげてデジタルコンテンツの質に取り組む姿勢を明確に示しました。

インターネット上のコンテンツの管理・判断は誰が行うべきなのか――世界100カ国以上で事業を展開する広告代理店グループPublicis Groupにて監査役会会長を務めるMaurice Lévy氏は、プラットフォームカンパニー単独に決断を任せるべきではないと主張。企業によるコンテンツ排除の動きが出現しているものの、「インターネットのエコー効果により、悪質コンテンツの影響や範囲は無限大」と述べ、第三者機関が「コンテンツの安全性」についての判断を下すのが望ましいとしました。

■Harnessing the Fourth Industrial Revolution

AIによって駆動される第四次産業革命のテクノロジー。グローバル企業CEOの63%がAIがインターネットよりも大きな影響力を持つと考えていると回答しています。中国、インド、ドイツのキープレイヤーが、その可能性と官民連携について語りました。

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Ken Hu(Deputy Chairman, Huawei Technologies)
・ パンデミック中に病院と協力してAI技術を使ったプラットフォーム開発を始め、今では中国全土にAIが配備された。これにより医師がCOVID-19を診断する時間が12分から2分になり、多くの命が救われた。
・ 鉱業における自動運転トラックは、効率向上とドライバー不足の解消につながっている。トラックの速度は時速10kmから35kmになり、安全性も大幅に向上。
・ 今後の混乱に備えて人間に注目すべき。誰もが将来に備えられるようにするにはどうすればよいかを、政府、産業、人々といったすべてのステークホルダーが協力して考えていくのが正しい戦略だ。

Mohit Joshi(President, Infosys)
・ AIはビジネスを変革している。コストと顧客の観点から、企業ダイナミクスは劇的に変わろうとしている。
・ バイアスを排除したデータセット、人々が自分のデータをコントロールできること、インフォームドコンセントのレベルに応じたアルゴリズム駆動を実現したい。

Andreas Kunze(Founder & Chief Executive Officer, KONUX)
・ プライバシーは守りつつ、データも活用する。AIは鉄道路線のマニュアル点検など高リスクの仕事の管理に活用できる。
・より多くのデータがアルゴリズムを強化する。AIはその優れた点を証明し、国を越えたコラボレーションを強化する必要がある。

■Improving Science Literacy【東大辻晶助教登壇】

コロナ禍でサイエンスの重要な役割が脚光を浴びた一方で、科学的裏付けのないデマ情報が人々を混乱に陥れた事例も世界中で多くみられました。社会におけるサイエンスに対する受容度や理解度(サイエンス・リテラシー)をどのように向上させることができるのかーー東京大学の辻晶助教授がパネリストとして議論に参加しました。

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冒頭、この課題に対してNature誌の編集長であるMagdalena Skipper氏から3つの柱「知識(Knowledge)」「手法(Methods) 」「関連性(Relevance)」が提示されました。登壇者からはなかでも「手法(Methods)」についての原則的な考え方を認知として広めることこそが、あいまいな情報を鵜呑みにする行動を抑止できると指摘された一方、テクノロジーとともに日進月歩の進化を見せるサイエンス分野の情報を適宜アップデートする必要性と難しさも議論されました。

サイエンスの最前線から、一般社会との距離を縮めるための活動はすでに始まっています。登壇者たちからは、担当するプロジェクトに関する漫画を発行したり、デジタルツールを使った定期的な情報を発信したりするなどの「サイエンス・コミュニケーション」活動も共有されました。

コロナ禍において、人々が信頼を寄せたのはサイエンスでした。情報の洪水のなかでそのすべてが適切な行動に結びついたとは言えなくとも、サイエンスの現場が、教育だけに頼らず、社会の信頼できる指針として自らの社会的責任を拡大し、行動するという変化が起こっています。

■Averting a Cyber Pandemic

リモート勤務やeコマースなど新しい生活様式によって世界がデジタルインフラへの依存を深める一方、急速なデジタル移行はサイバーセキュリティの脅威に対して社会の脆弱性をさらすことになりました。こうした「サイバーパンデミック」に対し、私たちの社会はどのように備えればよいのでしょうか。

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シンガポールのCyber Security Agencyから登壇したDavid Koh氏は、実生活のパンデミックとデジタルのサイバーパンデミックには『共同責任(Collective Responsibility)』と『ハイパーコネクティビティ』という共通点があると指摘しました。『共同責任(Collective Responsibility)』では例としてシンガポール政府が国家レベルでの戦略マスタープランを公表したことに触れ、社会と経済の潜在性を最大限に生かすために、国、企業、個人がそれぞれのレベルにおき共同で責任を負うモデルを説明。高い相互依存性を特徴とするサイバー空間で一つの脆弱性が波及効果を生んでリスクを生み出す『ハイパーコネクティビティ』に対しては、国境を越えた協力とアジャイルな対応が不可欠だと訴えました。

Global Shapers CommunityのClara Tsao氏は、現実の生活同様にサイバーパンデミックにおいても、「インフォデミック」など社会的弱者が深刻な影響を受ける傾向を指摘。また政府や企業においてもサイバーリスク教育が不十分であることを指摘しました。Check Point Software Technologies創業者のGil Shwed氏は「サイバー空間の劇的な拡大に関わらず人類が生き延びている点は誇りに思いたい」としたうえで、「より強固なインフラ整備」のための連携を呼びかけました。

■Japan’s Great Reset【SOMPO櫻田社長・NEC遠藤会長・三菱重工宮永会長・竹中平蔵氏登壇】

「三方よし(Three-ways satisfaction)」が、ステークホルダー資本主義として注目されています。売り手よし、買い手よし、世間よしという伝統的な経営理念が根付く日本が、未来に向けて切り拓くべきアプローチ、実践、パートナーシップとはなにか。目指すのはピンコロ!などのユニークな発言も飛び出し、国内外から注目を集めるセッションとなりました。

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SOMPO櫻田社長
・ 居心地のよい場所に留まり続けると、茹でガエル(Boiling Frog)になる。高齢化社会、人口減少、低経済成長、財政赤字、低生産性、低多様性に向き合い、今を変化のチャンスとしたい。
・ サステイナブルな社会に向けた実践知(Practical Wisdom)として、病気に苦しむことなく、元気に長生きし、コロリと最後を迎える「ピンコロ社会」の実現が目標。

Chatam House  Dr. Robin Niblett
・ 深刻な分断が進む国際情勢のなかで、グローバル連携の枠組みのリセットが必要とされている。なかでも日本は「Great Mediator(調停人/仲裁人)」として、分断回避というより強さ(strength)からのグローバル連携を実現する役割が期待されている。
・ G7拡大、TPP拡大、WTO改革、COP26サミットなどに期待

慶應大学名誉教授 竹中平蔵氏
・ 短期的にみると相対的に失業率や倒産件数が抑えられているが、中期的には不良債権問題など予断を許さない状況にある。
・ 経済の新陳代謝(メタボリズム)を変えていくためには「コーポレートガバナンス」「労働市場」の改革が必要となる

London Business School  Lynda Gratton教授
・ 長時間出勤、長時間労働など変革の必要性が叫ばれながらもなかなか変えられなかった日本の働き方は、パンデミックでついに粉砕(Smashing walnut)された。
・ 職場や労働生産性の意味が変わった今こそ、人やアイディアのグローバル化とイノベーションのチャンスだ。

セッションの締めくくりにはNEC遠藤会長と三菱重工宮永会長が登壇し、変化に向けて企業の果たすべき役割について力強いコミットメントが表明されました。


⬇️ The Regional Action Group for Japan「日本の視点:『実践知』を活かす新たな成長モデルの構築に向けて」


■Restoring Cross-Border Mobility

国境往来の再開に向けた希望は、グローバルな協力とテクノロジーの活用にあります。政府、医療、テック企業、海運のリーダー達が、安全な国境往来に向けた具体的なステップを議論しました。

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Yoti最高経営責任者のRobin Tombs氏は、安全な国境往来を実現するためには「トラスト再構築」が不可欠であることを強調。ワクチン接種やテスト結果を信頼できる形のためにはテクノロジーの活用および「相互運用性(インターオペラビリティ)」が鍵になると述べました。

すでに世界各地で「免疫パスポート」が構想化されていることに関し、インド科学技術省Harsh Vardhan氏は「ワクチンが期待通りに機能するのか、それが感染拡大を抑えられるのかについてまだ結論が出ていない」と指摘。最終的には国境を越えた接触追跡とワクチンパスポートが安全な国境往来実現のカギになるという意見を共有しながらも、「平等性とプライバシー保護」に基づいたグローバルな枠組みの構築が必要であり、性急な導入には慎重になるべきとの見方を示しました。


世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
ティルグナー順子
ジョナサン・ソーブル(グローバル・コミュニケーション責任者)
大原有貴(インターン)


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