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 スマホをすいすいとスワイプしていると、「おめでとうございます あなたはえらばれました」という動画。
 あー、こういうのあるんだよな。この動画が表示された方は幸運です、今すぐ視聴を……みたいな。よくやるなあ。
 おれはシュシュッとスワイプするのだが、進まない。スマホはその画面のまま固まって、やがてぷつ……と電源が落ちる。再起動するも、つかない。
 ふん、おれはスマホを脇に放る。
 するとインターフォンがポーン。む、メシが来たか。あるいは、過日頼んだ家具の類かしらん。
 はいはいはい、とインターフォンのモニターを見ると、真っ黒。悪戯? すると、
「おめでとうございます あなたはえらばれました」
 男の声。うわっ。全身総毛だって、おれはモニターから離れる。愕然と立ち尽くすうちに、今度はこんこん、こんこんこん、とドアをやさしく叩く音。それからドアノブがゆっくりと回され、こちゃ・こちゃこちゃこちゃ。誰かが、ドアを開けようとしている。
 どうしよう。スマホを拾うも、電源が付かない。大声出して隣人に助けてもらおうか。おおい、だれか、助けてください! 壁をどんどん、どんどんどん! と殴る。ドアを見る。あっ。鍵のつまみ、サムターンがゆっくりと横から縦に。おれはあわてて駆け寄って、つまみを握って鍵を閉め直す。おっ・おっ・おっ?! つまみは再び、ゆっくりと、しかし確実に縦方向に向かって回転を続ける。やっばい! 
 サムターンが垂直になるのと、ドアチェーンを掛け直すのがほぼ同時。ややおれのほうが早かった。すぐさまドアがガン! と開かれ、ドアチェーンがぴん! と引っ張られる。おれは傘立ての蝙蝠傘を咄嗟に掴んで部屋に退却。
 わずかに開いたドアの隙間から外が見える。廊下の、変り映えのしない壁面の代わりに、先の動画、そしてインターフォンのモニター画面と同様の、真っ黒がある。そこから、男の声でなんども、
 おめでとうございます あなたはえらばれました
 おめでとうございます あなたはえらばれました
 おめでとうございます あなたはえらばれました
 おれは傘を肩に掛けるようにして身構える。膝がぷるぷると笑う。
 引き延ばされたドアチェーンがぴし、ぴししと厭な音。
 ぱちん。あっ。ちぎれ

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