(青年が山道を歩いていると、ジジイが突然草むらから飛び出してくる)
ジジイ:なっ……お前、あの祠行ったんか?!
青年:いや、行ってないですよ
ジジイ:早よ蔵に隠、えっ
青年:えっ?
ジジイ:……
青年:……?
ジジイ:……お、お前、あの祠いっ
青年:だから行ってないですよ?
ジジイ:えっ?
青年:えっ?
ジジイ:何?
青年:何が?
ジジイ:……うーん。ちょっと話が見えないんやけど
青年:話?
ジジイ:念のため、もう一回だけ聞くけど、お前、あの
青年:行ってないです
ジジイ:……
青年:……
ジジイ:……ええと、そうか。うん。行ってない。祠に
青年:ええ
ジジイ:ええと、そうか、うーん。そういうのは、そうだな。あんまり、いやー
青年:……?
ジジイ:うん。じゃあそうか、この後に行く感じか?! 早よ蔵に
青年:いや、行かないですね
ジジイ:……それは何か予定が?
青年:はい
ジジイ:ああ、そういうパターン。それはその、何時くらいに戻ってくる感じかね?
青年:戻らないですね。終日というか
ジジイ:ああー。まあそうね。なるほどなるほど。じゃあ、明日は行けるんかな?
青年:明日も予定ありますね
ジジイ:終日?
青年:終日
ジジイ:うーん。えっ、逆に聞くけど、いつやったら行けるの?
青年:なんで行く前提なんです?
ジジイ:えっ
青年:えっ?
(青年、ジジイを置いて立ち去ろうとする。ジジイ、半笑いで腕を掴み)
ジジイ:いやいやいやいや、そうはならんやろ
青年:何ですか? やめてください……やめろ!
(青年、腕を振りほどく。青年の腕がジジイの顔に当たる。ジジイ、鼻血を出す)
青年:あっ……すいません
ジジイ:……ってよ
青年:え?
ジジイ:……行ってよ! 祠!
青年:いや……
ジジイ:……じゃあ来週は?
青年:だからその、行かないです
ジジイ:……
(ジジイ、唇を噛み、上目遣い)
青年:行かないです
ジジイ:……いくら?
青年:いくら?
ジジイ:いくらだ? イチゴ?
青年:イチゴ?
ジジイ:だから、一万五千?
青年:えっ? くれるんですか?
ジジイ:ホ別?
青年:ほべつ?
ジジイ:だから、ホコラ別で、イチゴかて?! なぁ!
青年:ホコラ別ってなんすか? だから掴むな! 痛ぇだろうが!
(青年がジジイの顔を殴る)
(ジジイ、蹲り、すすり泣き)
ジジイ:何なんだよぉ、もうー!
青年:こっちが聞きてぇよ
ジジイ:祠行けよ! クソが!
青年:行かねぇよ気持ち悪い! さっきから何なんだあんた!
ジジイ:祠!
青年:あ?!
ジジイ:……五万!
青年:五万も?!
ジジイ:……三万!
青年:なんでちょっと減らすんだよ
ジジイ:……すぐそこだから……すぐ済むから……
青年:……だから、行かないですって……
ジジイ:……もう、皆行っとるぞ!
青年:……皆って、誰ですか?
ジジイ:……行ってへんの、お前だけやぞ!
青年:……じゃあ、もう行きますから
ジジイ:祠にか?!
青年:帰るんだよ馬鹿
ジジイ:……分かった……もういいよ、バカ。いくじなし
青年:何なんだよ……
(青年、立ち去る)
(ジジイ、ぴったり後をついてくる。青年、立ち止まり)
青年:なんなんだよ気持ち悪ぃ!
ジジイ:わしも帰り道そっちなだけだもん!
青年:あ?!
ジジイ:あんたが道変えたらいいじゃないの! バカ! ヘンタイ! いくじなし! 祠知らず! ……祠童貞!
青年:ほこっ……童貞って……
ジジイ:……ひろゆきも言うとったぞ、祠行ってないやつ全員バカですって
(青年、溜息)
青年:じゃあ、いいですよ。行きましょうよ、祠
ジジイ:なっ……! お前、祠行くんか?!
青年:なんなんだよ
ジジイ:どっちから行くんか?! そっちの祠から行くんか?!
青年:え、なに何個もあんの? あと手を握るな! 気持ち悪い!
ジジイ:あっ……ごめん
青年:……てか、じゃあまず金、金くださいよ。三万
ジジイ:……金が目当てなんか?
青年:あ?
ジジイ:ホコモクの、ガキが……
(ジジイ、青年を睨みつける)
(青年、ジジイの頬をはたく)
ジジイ:あっ……
(ジジイ、しぶしぶ財布を取り出し、青年に押し付ける)
青年:……小銭しか入ってねぇじゃねぇか!
ジジイ:あっ……残りは、ほっ、祠に行ったら払う!
青年:いま払え!
ジジイ:祠が先!
(ジジイ、青年の頬をはたく)
(青年、ジジイの顔面を殴る)
ジジイ:……祠にあるから……金が……ほんとに……
青年:……じゃあもういいよ。早く案内してよ……だから手を握ろうとすな!
(ジジイ、恨めしそうに唇を嚙み、青年を見る。それから、とぼとぼ歩きだす。青年、後をついていく)
(日が暮れかける)
(ジジイと青年、祠にたどり着く)
ジジイ:……どう?
青年:どうって……別に……で、金は?
ジジイ:祠の、中の、ほら……
青年:ええ? あっ、これ?
ジジイ:そう。その、桐の箱
(青年、祠の中の、小さな桐の箱を開ける)
青年:うわっ
(青年、桐の箱を落とす)
(祠が音を立てて崩れる)
(箱の中身がゆっくりと蠢き、首をもたげる)
青年:あのっ……なんっ、なに……黒い……
(青年、青ざめた顔でジジイを見る)
ジジイ:……祠、見たんか?
(ジジイ、満面の笑み)
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