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アイデアとコンテンツのビジネスモデル:レシピ編

今回は、料理レシピの著作権を巡る問題を題材に、アイデアとコンテンツの性質を考えたいと思います。

アイデアやコンテンツの共有をどう許容し、どう保護するかは、料理にとどまらず、さまざまなビジネスで発生する課題ですよね。

レシピの著作権

食の世界では、ときどき
「レシピに著作権があるのか問題」
が取り沙汰されます。

アイデアに権利はあるか

結論だけ簡単にいうと、まず、「レシピのアイデア」に著作権はありません。
たとえば、過去に「おにぎらず」という握らないおにぎりが大流行していました。
この「おにぎらず」は意外性のあるひとつの立派なアイデアですが、このアイデア自体は権利にならないんです。
アートやソフトウェアなど他の分野でも同様ですが、アイデアやコンセプトに著作権は発生しません(特許が取れていれば別)。

実際「おにぎらず」を出す店は流行当時、探せばいくらでもありました。
「おにぎらず」のレシピを作ってブログ掲載している人だっていくらでもいました。
最初に「おにぎらず」を考えたのは有名な漫画家の方だそうですが、たぶん、人々はその発案者の了解を得ることなど考えもせず、寄ってたかってそれを扱いました。
でも違反者や逮捕者がいないのは、
「アイデアそのものはだれの権利でもない」
から。

これはこれで合理的といえるかもしれません。
というのは、アイデアの自由な流通こそが新しいものを生み出す原動力ともなるから。
アイデアがどれもこれも保護されたら、社会の発展は止まる可能性があります。

コンテンツに権利はあるか

いっぽう、「アイデアには権利はない」のですが、「コンテンツ」には権利があります。

アイデアは独占できないので、
「私の考えた料理アイデアを真似された」
となっても文句を言えません。
しかし「レシピの文章」には著作権が発生する場合があります。
文章は「コンテンツ」だから。

シンプルで短い文章だと独自性がないため著作権はなかなか認められません。
しかし例えば、

  • アレルギー対策や健康志向を考慮した特定の目的に基づく詳細なレシピ文章

  • 料理の背景や歴史、調理手順の詳細な解説を伴うレシピ文章

など、独自性が感じられ、ある程度長い「コンテンツ」であれば、小説などと同じで、著作権が認められやすいのです。
(ちなみに、著作権はどこかに申請しなくても、自然に発生します)

さらに、写真やイラストが付随する場合も、それらの要素が著作物としての独自性を持つと認められることが多い。
写真やイラストは「コンテンツ」だから。

また、レシピを用意して作るところを動画にした場合、その動画にも著作権がつきます。
動画は「コンテンツ」だから。

つまり…

以上を整理すると、

「この料理のアイデアは私が考えたから、みんなはマネしないでね」
とはなかなか主張しにくい。
しかし

「この料理の作り方を丁寧に説明した私の文章は、盗作しないでね」
「この料理の作り方を撮影した私の動画は、勝手に使わないでね」

は、「コンテンツ」だから主張できます。

レシピを盗る人、守る人

話は変わりますが、レシピが盗用されて悔しい思いを経験している料理家は、けっこう大勢います。

海外の悲劇

レシピの盗用事件は、日本にかぎらず、海外でも多いようです。

たとえばこれはイギリスで起きた事件ですが、ある無名の若手料理家が、有名料理家の料理本を買って読んでみると
「わ、わたしのレシピが大量に使われている!」
ことを発見してびっくり。
それがおおやけになり、有名料理家側はレシピ本の出版を中止しました。

この事件は料理業界内だけでなく、一般の人々にも衝撃を与えたようです。
英国内でレシピを取り巻く文化や倫理についての議論が活発化し、多くの人々が料理の創作や著作権についての意識を高めたといいます。

過去の悲劇

レシピが模倣されて悔しい思いを経験している料理家は、現代にかぎらず、昔からも多かったようです。

その証拠に、半世紀ちかく前のフランスで、
「レシピ盗用の被害を防ぐため、レシピを守る団体を立ち上げよう」
という動きがありました。
レシピをパクられて泣いている人、そのころにも(たんと)いたんですね。

しかしこの計画、当時の有名シェフたちに猛反対されたそうです。
レシピを守る計画は、実現しませんでした。

なぜ、どうして、有名シェフたちは反対したんですかね…?
今となっては、その理由は想像するしかありません。





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