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【講座メモ】対象の切り替え/感情レベル

池袋コミュニティ・カレッジで講師を担当しています朗読講座「西村俊彦の朗読トレーニング」
【詳細はこちら】

宮沢賢治の『注文の多い料理店』を題材に行うシーズンの4回目講座メモです。

4回にわたりテキストを読んできましたが、今回は最終部分について考えていきました。

動作のスピード2パターン

「二人ともぎょっとしてお互いにクリームをたくさん塗った顔を見合わせました」
この動作はどんなスピードだったのかを考えます。
「素早く」見合わせたのか「ゆっくりと」見合わせたのか。
文章には書かれていませんが、その様子を考えてみると色々なパターンが考えられます。
同じ地の文でも、素早く/ゆっくり読んでみると、その動作のスピード感が変化します。
また、その後に続く台詞のやりとりの緊張感の上がり具合にも影響が出てきますね。

「うわぁ」にも色々ある/感情レベル設定

状況への恐怖から発せられる台詞「うわぁ」
文字で「うわぁ」と書いてあると「う」と「わ」と「ぁ」で読んでしまいがちですが、文字通りに読むとちょっとおもちゃみたいになってしまうことがあります。恐怖で言葉が詰まる「つ、つ、つ、つまり」等も同様です。
実際にシチュエーションを想像して(部屋にゴキブリがいた時の声、など)その「恐怖」を音にしてみました。
さらに恐怖の度合いを小/中/大と設定し、感情の柔軟さのストレッチをしました。
「うわぁ」と言うと共に後ずさる、その距離と速さを大きくする、などでも自然と感情が動いてきます。
恐怖レベル2など、感情量を数値で設定してみるのも面白いかもしれません。

うわぁにも色々ある

対象の切り替え

「そんなに泣いては折角のクリームが流れるじゃありませんか。へい、ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」
この山猫の台詞、途中で話す相手が切り替わっていますね。
二人の紳士への呼びかけ→ボス山猫への応答→二人の紳士への呼びかけ
と進んでいます。
台詞内で話しかける対象を切り替える意識をハッキリさせるために…

・位置を想像する
ボス山猫が自分の後方、わりと距離のある位置にいると考えて、「へい、ただいま」の部分を後ろに振り向いて遠くに向けて発話してみます。
紳士への呼びかけはまた距離感を戻して。
こうしてみると明らかに音の雰囲気が変わってきますね。

・書いていない台詞を想像する
「折角のクリームが流れるじゃありませんか」の直後に講師が「まだか!」と大きく不機嫌な書かれていない台詞を声に出すことで感情と対象を動かしました。
「へい、ただいま」には心の重心が上がる、びっくりする、心臓が口から出そうになる、焦る、などのリアクションが乗ってきますね。
これにより対象の変化は明確になりますし、ボス猫と発話者の猫との関係性も見えてきます。嫌いなのか怖いのか、忠実なのか不真面目なのか。
あなたのボス猫はどんな猫でしょうか?
こういう書かれていない事を想像していくのも、声に出して読む事の一つの醍醐味だと思います。

切り方を考える

「二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。」
こちらの地の文を、色んな切りどころで試してみます。
二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。
二人は泣いて泣いて/泣いて泣いて泣きました。
二人は/泣いて泣いて泣いて泣いて/泣きました。
二人は/泣いて/泣いて/泣いて/泣いて/泣きました。
それぞれ印象が違ってくるかと思います。
特に正解はないので自分のしっくりくるもの、楽しいものを選んで良いと思います。
ただ、ここに「、」を一切打たなかった作家の意図、といったものも検討の材料にはなります。
その作家が句読点に対しどんな役割を持たせているかも考えどころですが、必ずしも「声に出されること」を想定している作家ばかりではないので、神経質になりすぎる(句読点を守りすぎる)事はないと私は考えています。
宮沢賢治は結構長い文章にも句読点いれなかったりする傾向が強いな、というのが私の印象です。
そのまま読もうとするとどこがどう繋がっているか分かりにくい印象になることもあります。
(「黒い長い髪の美しい少女」などが有名な例文でしょうか。黒い髪なのか、黒い長い少女なのか、などなど。これらは言葉がどこにかかっているのかを意識することで聞こえ方が変わります)

リフレイン

「風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。」
作品導入部でも出てきたフレーズが最終部でも登場。印象的に読みたい部分ですね。
・音の発生する位置の高低を考え視線を動かす
・魔法をかける呪文のような気持ちで
などなどで声に出してみました。

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