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講座メモ・太宰治『貧の意地』

池袋コミュニティ・カレッジで講師を担当しております講座「西村俊彦の朗読トレーニング」【詳細はこちら】

2023年10月からスタートのシーズンは太宰治『新釈諸国噺』より「貧の意地」をテキストにしております。
4回を読解と実験に使い、残りは発表会練習・発表会となります。

各回でやったことなどを軽くまとめていきますので、ご受講のご参考に。


第一回

第一回の板書

作品解説

ざっとあらすじを説明し、今シーズンの目標を話してみました。かなり話芸に近い形で書かれた作品なので、かろやかに語る、を大きな目標に設定。
そのために「力を抜いて語る」ことを大切にします。

リズムを踏む

冒頭の「おそろしく髭の濃い、眼の血走った中年の大男が住んでいた」
の箇所で、3つの要素をリズム良く並べていくトレーニング。要素の数に応じて気持ち良いリズムを探しましょう。また、要素の価値にも注目。等価値なのか、ひときわ重要な情報があるのかでリズムの取り方が変わってきます。

一息チャレンジ

「剣術の折には眼を固くつぶって奇妙な声を挙げながらあらぬ方に向って突進し、壁につきあたって、まいった、と言い、いたずらに壁破りの異名を高め」
冒頭ではおそろしく長い一文が登場します。特に上記の部分などは内容的にもなかなか区切りが難しいので、試しに一息で読んでみるトレーニングをしました。間を空けても息を吸わない/間で息を吸う、でも聞こえ方のイメージが変化します。

強調する

年にいちどの大みそか
という重要ワードを強調する方法を模索しました。ある箇所を強調するには、音の高低・強弱・緩急・間を、直前直後の言葉と変化させることが肝心です。

作者を感じる

「狂ったのではない。駄目な男というものは、幸福を受取るに当ってさえ、下手くそを極めるものである」
ストーリーの端々に太宰治が顔を出しているような感触があります。作者になりきってみるもよし、作者を思って読むもよし、ストーリー進行から少し脱線する味わいを楽しみましょう。

ツッコミを入れる

「なんの事は無い。うれしさで、わくわくして、酒を飲みたくなっただけの事なのであった」
地の文がツッコミの働きを持つ箇所。冷ややかにツッコむもよし、笑顔でツッコむもよし、呆れるもよし。物語への出入りを楽しみましょう。

第二回

声と呼吸の方向

文章の切りどころを考える

「みな似たような思いと見えて、一座しんみりして、遠慮しながら互いに小声で盃のやりとりをしていたが、そのうちに皆、酒の酔い方を思い出して来たと見えて、笑声も起り、次第に座敷が陽気になって来た頃、主人の原田はれいの小判十両の紙包を取出し、」
これまた「。」のつかない長文ですが、こういった箇所は特に、どこで区切るかが重要になります。句読点を意味の繋がりの箇所で打ち直し、声にした時に気持ち良いリズム、意味が染み込みやすい区切りを考えましょう。

人物造形

この作品の主な登場人物は武士。皆さんが思い描く武士は、どんな喋り方をするでしょうか?
偏見で構いません、身分の高い/低い、機嫌が良い/悪いなど、シチュエーションや職業などを変えて、イメージにピタリと来る話し方を探しましょう。

ひらめく息

人物がある計画をひらめく。漫画で言えば豆電球が点灯するような場面。息遣いはどうなっているでしょうか?ハッと息を吸う感覚が直前にあるような気がします。ハッと息を吸ってから、「いかがです」と発話してみます。他の場面でも、人物がどんな呼吸をしているかは表現の大きな助けになります。

空気が変わる瞬間

披露していた小判が一枚無くなる場面。
「原田は無雑作に掻き集めて、はっと顔色をかえた。◯一枚足りないのである。」
はっと、の部分にニュアンスを、◯を書き込んだ場面で緊張感を漂わせてみましょう。息を呑む、あるいは息を詰める、など呼吸を動かしてみると雰囲気が動きやすくなります。

動作で勢いをつける

「この上は、それがし、まっぱだかになって身の潔白を立て申す。」
小判紛失に自分は関わっていないと釈明する台詞。発話する前に机を叩いてみるなど、大きな動きを入れてみましょう。台詞にも勢いと覚悟が出てきます。

第三回

身体のあり方

力を込めて

「誰もそなたを疑ってはいない」
潔白証明の為に腹を斬ろうとする仲間の手を抑えて発される台詞。自分の片手を掴んでみるなどして、実際の動作を味わいつつ声を出します。声に表情が出てきますね。

複数人で空気を共有する

無くなっていた小判がふいに出てきて一同安心、気が抜けて大笑い、そこへ妻が駆け込んでくる、
と場の出来事が大きく動いていく場面。セリフを複数人で担当し、出来事の変化を共有してみましょう。皆が同じ場にいて同じ出来事を経験する。
雰囲気は生き物のように躍動を始めます。

地の文のリズム【カメラのカット割】

「と息せき切って語るのだが/主客ともに、けげんの面持ちで、やっぱり、ただ顔を見合せているばかりである/これでは、小判が十一両」
/ごとに映画のカットが変わるイメージで語る内容が変わっていきます。自分で映画を撮るとしたら、どのような写し方にするでしょうか?クローズアップ?ロングショット?動的?静的?カメラのカットをイメージすることで、語り方にも変化が現れます。


第四回に続く…

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