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これは昔よく通っていた喫茶店のアルバイトの女の子が、私たち常連客に話してくれた、あまり怖くないというか、笑い話のようなお話です。

彼女(仮にTさんとしておきます)が、大学3年生になる頃、それまで住んでいたアパートを引っ越すことにしたそうです。
周囲の生活音がよく響いたり、隣近所の住人の言動もなんとなく肌にあわなくて、学年が変わるのを機に転居を決断しました。

そのことを友達に話していると、同じゼミのSさんという女性も同様に引っ越しを考えていることがわかりました。
Sさんは誰とでも気さくに喋る明るい女の子で、Tさんも何度も食事に行ったりしている仲でした。

同じタイミングで転居を考えているのなら、いっそのこと二人でルームシェアしようという話になったそうです。
二人で不動産屋をいくつかまわってみましたが、なかなか条件に合う物件がみつかりません。

どうしようかと思っているとき、一軒の不動産屋で、今さっきデータがあがってきたばかりというマンションのひと部屋を見つけました。
さっそく間取りや条件を確認し、内見にも行ってみましたが、なかなかに好印象の物件です。
家賃も広さの割には随分と安かったのも心が傾いた点でした。

念のために事故物件ではないかと尋ねたところ、このお部屋では亡くなっておりませんとのこと。「えっ、このお部屋では?」
くわしく聞いてみると、この部屋には中年の独身男性が住んでいんだたが、どこかの山の中で自ら命を断ったそうだと教えてくれました。
身よりもなく残置物(ざんちぶつ)もあったため、その処理に時間がかかって、この時期にデータがあがってきたのだということでした。

話を聞いてふたりは少し悩みましたが、二人とも霊感などまったくなかったことと、一人で住むのではないという変な心強さもあり、なによりも詳しく聞いたことで家賃をさらに少し割引してくれたため、契約することにしたのでした。

引っ越してから数ヶ月は別になにごともなく経過しましたが、半年ほどたったころから徐々にラップ音がするようになったそうです。
それでも気にせずに生活していると、テーブルの上のコップが急に動いたりという、ポルターガイスト現象もおこりはじめました。

そして住み始めて10ヶ月ほどしたある夜、寝苦しくて夜中に目が覚めたTさんは、部屋の隅に男が立って、自分の方をじっと睨んでいることに気がつきました。
白いワイシャツにノーネクタイ、黒っぽいズボンを履いた中年男性で、おそらくこの部屋の前の住人だと思われます。

「うわっ、出た~」と思いましたが、なぜかあまり怖さは感じませんでした。
それよりも自分を睨んでいる男の視線と態度が妙がムカついて、部屋の隅に向けて思いっきり枕を投げつけたそうです。

その2、3日後、今度はSさんも夜中に部屋の隅に立っている男を見たといいます。
話を聞いてみると、服装や年格好から同じ幽霊に間違いないとわかりました。
しかし、ひとつだけ違っていたのは、Tさんを睨みつけていた男が、Sさんにはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていたことでした。

その後も男は何度か部屋の隅に立って睨んできましたが、それ以上は何もしてこなかったので、Tさんは無視していました。
ところが、まもなく1年がこようというある夜、Tさんはついに金縛りにあいました。

「あっ、人生初の金縛りだぁ」と呑気なことを考えていると、体の上に誰かが乗っててくる気配がします。
目を開けると、あの中年男の怖い顔がありました。
そしてお決まりどおり首を締められて気絶。
気がついたら朝になっていました。

数日後、やはり同じようにSさんも金縛りにあい、男が足元から胸の上に這い上がって来たとのこと。
二人はすぐにこの部屋を引き払いました。

「へぇ~、怖かったんだねぇ」と、私たちが言うと、
「ううん、ちがうの」とTさん。

「わたしには首を締めてきたのに、Sさんには体を触ったり、髪を撫でたりしてきたんだって。
あの幽霊エロオヤジ、明らかに私のこと差別してると思うと、そっちの方に腹が立って…。
ちょうど1年目だし、速攻引っ越して、Sさんとのルームシェアも解消したの」と、あっけらかんと言い放ったTさんに、
「え~!?、そっちか~い!」と話を聞いていた一同、総ツッコミを入れたお話でした。

初出:note 20,022年10月31日
再掲:週刊怖い図書館 ツイキャス 2022.11.20
週刊怖い図書館 第264回 20221121
再再掲;You Tubeチャンネル 星野しづく「不思議の館」
怪異体験談受付け窓口 八十九日目
2023.9.13


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