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葬儀の家

今回は、鈴木さんという中年男性が話していた、短いですが、ちょっと不思議で気になるお話です。

鈴木さんは配置薬のルート配送、いわゆる置き薬の点検や配置の仕事をしていて、わが家にも3ヶ月に一度くらいの割合で訪ねて来ます。
10日ほど前にも訪ねて来たのですが、そのときにこんな話をしていました。

「巡回ルートの、いつも通る道の脇に一軒の家があるんですが、そこが今すごく気になってるんですよ」と彼は言います。
「最初は一年くらい前だったかな。その家の前を通ると葬式をやってたんです。
白黒の…鯨幕っていうんですか?あれが張ってあって、花輪なんかも幾つも出てて、いかにも昭和のお葬式っていう感じでね。
最近は葬儀会館とかですることが多いのに、自宅でするなんて今どき珍しいなと思いながら、そのときはそのまま通り過ぎたんです」

鈴木さんは、薬を新しいものに取り替えて、栄養ドリンクの試供品を1本差し出しながら話を続けます。
「でね、その3ヶ月くらいあとに同じ道を通ったら、その家、また葬式をやってたんですよ。
前と同じように鯨幕に花輪も出てて、そのときは昔ながらの金ピカの霊柩車、宮型って言うんでしたっけ、それも来ててね、ちょうど出棺の前だったのかなぁ、郊外の、周りには田んぼや畑しかない中にぽつんとある一軒家なんだけど、参列者はけっこういっぱい集まってて…。
私も別に日にちを決めてそこを通ってるわけじゃなく、だいたい3ヶ月に1回のペースで通る道なのに、そこで2回も同じ家の葬式に出くわすなんて、こんな偶然あるんかなと思いながら、その時も通り過ぎたんです」

「ところがですよ」と、携帯用のプリンターに伝票の用紙を差し込む手を止めて、鈴木さんはこちらに向き直りました。
「この前の8月にその家の前を通ったら、また葬式をやってたんですよ。
3回続けて葬式に出くわすなんて、いくらなんでもありえなく無いですか?
こんな偶然があるわけない、いったい誰の葬式をやってるんだろうと思って、車のスピードを落として確かめようとしたんですけどもね、よく見えなかったんです。
〈◯◯儀 葬儀式場〉っていう看板は出てるんですが、その◯◯のところがぼやけててよく見えなかったんです」

「それでどうにも気になってね、うちに帰ってからストリートビューで調べてみたんです。そうしたらね、その家、ないんですよ。
どう探してもそのあたりは田んぼや畑ばかりで、家なんてないんですよ。
けっこう古っぽい家だったんで、ストリートビューの写真が撮られたあとに建ったとは思えないし…謎なんですよね」

鈴木さんは持ってきた大きなジュラルミンのケースの蓋を閉じながら最後にこう言いました。
「来月、またその道を通るんですが、その時にちゃんと家があるかどうか、それで、もしまた葬式をやってたら、今度は車を降りて確かめてみようかと思ってるんです。今度こちらに伺ったときに、どんなだったかご報告しますよ」

その言葉を聞いて私は思わず
「いや、やめといたほうがいいんじゃないですか?
確認しに行ってもし鈴木さん自身の葬儀だったりしたら洒落にならんですよ」とオカルト脳全開で言ったのですが…、
はたして彼は3か月後、私のもとに無事な姿を見せてくれるのでしょうか?


初出:You Tubeチャンネル 星野しづく「不思議の館」
恐怖体験受付け窓口 九十四日目
2023.11.4



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