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今回は、とある骨董店で聞いたうわさ話です。

骨董商や古物商というと、買い取りに行ったり、持ち込まれた品を買い取ったりしているようなイメージですが、実は大半の商品は業者の競り市(せりいち)で仕入れます。

競り市には、コレクターの処分品や、旧家の土蔵から出たばかりという骨董的価値の高い品から、業者の店の売れ残り、遺品整理の品、果ては使い道に困る引き出物のお皿など、ほとんどゴミに近いようなものまで、実にさまざまな物がならびます。

参加者は市(いち)の始まる前に下見をして、お目当ての品を競り落とすわけですが、運良く落札できても、よほどの高級品でないかぎり、その品だけを持ち帰ることはできません。

たいていの場合はほかの品といっしょに、一山まとめての競りになっていて、落札すれば嫌でも欲しくない物まで付いて来ることになります。
さらには「オマケ」と称して、ゴミ同然の品も無理やり押し付けられるのが通例です。

ある日の市で古物商のNさんも、古い日本人形をオマケとして付けられました。
いわゆる市松人形で、全部で3体ありましたが、内1体は傷みがひどく
ゴミとして処分するほかなさそうでした。

残りの2体も、1体は顔はきれいですが、胴体は右足がなくなっており、
着ている着物もボロボロな状態。
もう1体は逆に、胴体の状態は良好ですが、顔はネズミに齧られたようで、
片方の頬が大きく欠けています。

さて、どうしたものかと悩んだNさんでしたが、2体の人形がほぼ同じ背格好であることに気づきました。
ためしに人形の首を引っ張ってみると、わりと簡単に抜くことができます。

Nさんはこれぞ妙案とばかりに、2体の人形の無事な首と胴を合体させて、
店の棚に並べました。
もともとタダで入手した品です。少しでもお金になれば儲けものというところです。

残った首や胴体は、翌日処分することとして、ほかのゴミといっしょに店の裏口の脇に積み上げておきました。

その日の夜、営業時間が終わり、シャッターを閉めて店を出たNさんは、裏口脇の暗がりで何かがモソモソと動いていることに気付きました。
近寄ってみると、それは首のない人形の胴体でした。
あの首をすげ替えた市松人形の、ボロボロの胴体が動いていたのです。

その胴体はゴミの山から転げ落ちて、地面を這っていました。
何かを探すように片手で地面をまさぐりながら、少しずつ匍匐前進するように這っているのです。
Nさんは悲鳴をあげて自宅に逃げ帰りました。

翌朝恐る恐る店に行ってみると、人形の胴体は、裏口の扉の前に力尽きたように転がっていました。
朝の白々とした光の中で見るその姿にさすがのNさんも憐れに思い、急いで首を元に戻して、店の奥の非売品の棚にならべ変えたそうです。

今Nさんがいちばん気がかりなのは、もう1体の胴体だけになってしまった人形のことです。
状態が良いので捨ててしまうのは惜しく思い、まだ手元に残してあるのですが、いつ動き出すかと内心怯えながら過ごしているそうです。
しかし、元の首は傷みがひどく、すでに処分してしまっているわけで…
「どこかにええ首はねえかなぁ」というのが近ごろのNさんの口癖なんだとか。

初出:You Tubeチャンネル 星野しづく「不思議の館」
怪異体験談受付け窓口 六十六日目
2022.11.6

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