マガジンのカバー画像

怪しの話

88
You Tubeのの星野しづくさんのチャンネル「不思議の館」と、ツイキャス(You Tube)の「怖い図書館」に投稿した、不思議な話や怖い話をほぼ週1回のペースで掲載しています。
運営しているクリエイター

2024年1月の記事一覧

月下美人

今回は久しぶりに祖父の多吉から聞いた昔話です。 祖父が20代の頃と言いますから、昭和のはじめ頃のこと。 とある春の日、多吉青年は住んでいた集落から、近くの大きな町まで本を買いに出かけたのだそうです。 町は小さな集落をいくつか抜けた先にありました。 バスは通っていましたが、1時間に1便程度の運行でしたので、自転車で行くことにしました。 父親から大きな荷台のついた、黒くて頑丈さだけが取り柄のような業務用の自転車を借りて、家を出たのは午後2時過ぎ。 目当ての本を買い、町の中を

夢の中へ

これは、とある工場に勤めていた井上さん(以下すべて仮名)という男性から聞いたお話です。 20年ほど前のことです。 井上さんの同僚に斉藤君という男性がいました。 井上さんと同郷で、年齢は29歳。 ひょろりと背が高い、無口な青年でした。 真面目で温厚な性格でしたが、何事にも不器用で要領が悪く、仕事上でも時々ミスをしていたため、30歳近くになっても役職に就くことはなく、平社員のままでした。 しかし、その事を本人は特に気にする様子もなく、会社の独身寮等に住んで、淡々と毎日の仕事を

クスノキとグライダー

 今回は私が小学3年生の時に見た不思議な光景のお話です。 男性なら、子どもの頃に一度は遊んだことがあるのではないかと思うおもちゃのひとつに「グライダー」があります。 埼玉県のツバメ玩具製作所という会社が昭和25年頃から作っている、型抜きされた胴体のスリットに主翼と尾翼を差し込むだけの簡単な造りのおもちゃです。 ゼロ戦やグラマン、ムスタング、メッサーシュミットなどの往年の名戦闘機の絵柄が印刷されていて、私が子どもの頃は駄菓子屋で20円ほどで売られていました。 今は「ソフトグ

プリンター

これはフリーライターをしていたEさんという男性から聞いたお話です。 10年ほど前のことです。 Eさんは、それまで自宅兼仕事場として借りていたマンションが手狭になったため、もう少し広い2LDKの部屋に引っ越したのだそうです。 新居は川沿いにある8階建てのマンションの最上階で、夏には花火大会も間近に見ることができるという、眺めのよい物件でした。 引っ越してしばらくしたある朝のことでした。 Eさんが仕事部屋に行くと、床にA4サイズの白紙が一枚落ちていました。 昨夜、仕事を終えて