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レッカーされて2.6里

高校生の頃のある日。
まあまあな雨だったので、学校近くのコンビニまで母が車で迎えに来てくれることになった。

私と行きに乗っていた自転車を載せて、車は出発した。

が、出発早々車から変な音が聞こえ、それとほぼ同時に嫌な衝撃が走り、母は急いで車を脇に停めた。

外に出て、ぐるっと車を見てみると、見事に前輪がパンクしていた。


「あ~あ、これJAF呼ばなきゃだわ」


母はそう言って電話でJAFを呼ぶと、数分後に駆けつけてきてくれた。


JAFのお兄さんはパンクを確認し、
「あ〜完全にパンクしちゃってますね〜。車はレッカーで運びますね」
と告げた。


まあそうなるよな、と思うと同時に「え、私たちはどうやって帰るの?」と次は自分たちに心配が向いた。

こういう事故の時って、JAF側が自宅までのタクシー代を出してくれるパターンがあるから、きっとそうなるんだろうなとなんとなく思っていた。
高校生にとってタクシーなんてのは贅沢な乗り物だったから、車が事故ってるというのに不謹慎ながらも、ちょっとワクワクしてしまっている自分がいた。


そんな妄想をしているうちに冷静な母は「私たちはどうやって帰ればいいですかね、、、?」と、私の疑問を代弁する形で確認してくれていた。
さすが、母である。



「えっと、、レッカー車に一緒に乗っちゃってください!」



一瞬、お兄さんが言っていることが全く理解できなかった。

レッカー車にはお兄さんの乗る運転席とその助手席しかないので、どうしても一人溢れる。
仮に3人ぎゅうぎゅうに乗れたとしても、シートベルトをしないで乗ったりなんかしたらおまわりさん案件である。
頭が真っ白になっている私に、お兄さんはさらなる追い打ちをかける。



「えっと、“車”に乗ってください!」



そこでようやく事態を理解した。
私たちが乗るのは、引っ張る側のレッカー車ではなく、引っ張られる側の我が家の“車”の方だった。
そりゃ理解に時間がかかる。
だって引っ張られる側の車に、まさか乗って良いということなんて始めて知ったのだから。


引っ張られる車に乗っても良いんだという衝撃を受け入れた次に押し寄せたのは、シンプルに「ウケる」という感想だった

前輪がパンクというまあまあシリアスな状況に対して、前輪を持ち上げられた斜めになった車の中で10㎞ほど引っ張られることを想像したら、なんだかジワジワ来てしまった。
 

それは母も同じであった。
うちの家族は笑ってはいけないという環境に滅法弱い。

例えばお葬式のお経で、急にテンポや勢いが変わる感じとかが本当に無理なのだ。

あんなに静かに一定のリズムを刻んでいたのに、お坊さんが唐突に「んんん、っはぁああああああ~!!!!!」とか言ったりすると、

「(今のはずる過ぎるだろ!誰が笑わないんだよ!!!)」などとツッコミを入れてしまう。

その時は歯を食いしばって我慢するのだが、お経が終わると開口一番に誰かが感想を言って肩を震わせながら笑ってしてしまうなんてことが度々あるのだ。(不謹慎2回目)


二人してニヤニヤしながら、前輪が持ち上げられ斜めになった車に乗り込む。
タクシーなんかより断然ワクワクした。

そして車が動き出す。
いつもと同じ道を走っているのに、いつもより地面は遠いし、見える景色の空率が高い。
その違和感が本当に楽しかった。


母子ともに感想は「楽しい」に尽きた。
母が「なんかアトラクションみたいだね」なんて言うから、私のおふざけモードに拍車がかかった。

YouTubeで急いで検索したのは、『インディ・ジョーンズ』のテーマ曲。
母には何も言わず、急に曲を流した方が絶対に面白いと分かりながらも、流した後に絶対に面白いことは見えていたので、笑いをこらえるのに必死であった。


そして案の定、爆笑。
きっと車も振動していたに違いない。

この光景がJAFのお兄さんにバックミラーなどで見られていたりなどしたら、きっと異様に映ったことであろう。

この後もさらにしっくり来る曲はないだろうかと探したりしたが、やっぱりインディ・ジョーンズを上回る曲は無かった。
そんなこんなをしているうちに我々の冒険は終わった。


後日、この大興奮な体験を学校の友達に話したが、話ながらあほらしすぎてやっぱり幻想だったのではないかと思うほどであった。



私と同じように、レッカー車に引っ張られたという経験のある方、コメントいただけると大変嬉しいです。

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