部屋と遠雷

あなたのような人のこと、遠い雷だと思っていた
雨は降らない 雲も晴れない
閉め切った窓の中でも 音や光で知っていた
あの真下にいたなら、運が悪ければ死ぬだろうと
目を閉じて 眠ったふりをして

煌めく色彩 世界はガラス細工
たった一人の指の仕草で きらきらと砕け散る
誰もが歌う 液晶の向こうで
あなたのような人のこと、ずっと、遠い場所にいると思っていた
今でも信じてやまない でも

窓の結露を一筋の水滴が撫でて線を引くように
フォークの四角い切っ先が卵の黄身を割るように
あなたはこの部屋にやってきてしまった
あんまり静かで 気づくことができなかった
確かにいるのにさわれない 実体のないもの
あなたは影 微睡む私のすぐ下に いつでも寄り添うもの

きっと、このまま横たわって呼吸を続けて
ゆっくり破滅を迎えるのだろうと 予感してる
痛みも 救いもなく
目を閉じる 温かい暗闇はあなたの姿をして
誰もが歌うそのこと、一つだけわかった
部屋に満ちて息を止めるなら それはあなたがいい



2022/7/31 病院

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