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左手よりも短い右手

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【連載小説】左手よりも短い右手 #3

【連載小説】左手よりも短い右手 #3

 丘の上から見下ろすと、電線が交錯する街並みが一望できた。不器用な蜘蛛の作った巣のように、道は好き勝手に伸びていて、地図アプリを眺めていても、迷いそうになった。
 踏切と、電車の音がする。それ以外はとても静かな街。兄の暮らしたアパートは丘の裾にあるチャコールグレーの二階建てだった。
 扉を開くと廊下があり、奥には六畳間が一つあった。ちゃぶ台に座布団がひとつ。壁際に小さなテレビがあり、脇にルーターが

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【連載小説】左手よりも短い右手 #2

【連載小説】左手よりも短い右手 #2

 カーテンを閉め切らないのが僕の癖だった。暗すぎると怖いから、いつも数センチ開いておく。隣家のモクレンの枝振りが見えるくらいがちょうどいい。
 その隙間から、月明かりが差して、枕元の人を照らしている。毛布を退いて、腰に痛みを感じる程に振り返って、ようやくその人が兄だとわかった。
「どうかした? というか、いつ戻ったの」
 驚いたことをごまかしながら、ぼやけた視界で眼鏡を探した。布団の外にも手を伸ば

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【連載小説】左手よりも短い右手 #1

【連載小説】左手よりも短い右手 #1

 二つ年上の兄がいる。兄貴と呼ぶ機会を逸してしまい、お兄ちゃんと呼ぶ程の親しみも薄れて、今では僕は彼を「兄」とだけ呼んでいる。

 兄と話さなくなった理由は、はっきりとは思い出せない。僕から嫌いになったわけでも、兄から嫌われたわけでもないと思う。嫌いに繋がるエピソードは無かった。僕らは同じ屋根の下で平和に暮らしていた。漠然とした連帯感がかつてはあったような気がするけれど、それはきっと薄い紙のような

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