大江健三郎『性的人間』における〈J〉の欲望について
大江健三郎の『性的人間』は三人称視点で書かれる二部構成の短編小説である。前半部では、主人公である〈J〉たちが映画を撮るために訪れた別荘での事件が扱われる。後半部では、国会議事堂前駅で痴漢をした〈少年〉が、《舗道上の友人》という痴漢行為の互助組織について扱われる。本稿中の引用の明記方法については、丸括弧内の全角数字が引用・参考文献の数字と対応する。
『性的人間』では主人公である〈J〉の性癖を中心として人間関係が構築される。それは、前半部では「自分を核とした自分流の性の世界