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わたしとthe pillows

大学生だった。人生最大の失恋をした。
Base Ball Bearが好きな人だった。

その人が離れていって、その好きだった音楽だけが置き土産のように心にあった。
その面影を少しずつ忘れていくのに、なぜか反比例のグラフのようにBase Ball Bearばかりを聴いていた。
ある時、彼らが歌う『Funny Bunny』の音源を聴いた。the pillowsというバンドのカヴァー曲だった。

the pillowsねぇ。
BUMPやミスチルがカヴァーしたのは知ってる。歌詞がめちゃくちゃいいバンドなんでしょ、確か。
案外ちゃんと聴いたこと、今までは無かったな。

『Funny Bunny』のカヴァーを気に入ったので、とりあえずベスト盤らしきアルバムをベボベの新譜と一緒にレンタルした。全曲順番にリピート再生する設定にして、作業中や散歩中のような何となく耳寂しい時に流し聴きしていた。
ショックでベボベのみに完全依存、他のアーティストの音楽に対し鈍感になっていたが、その中の1曲に、これは…という歌詞があることに気づいた。

「理由がなくちゃ すぐ会えないなら 何か考えなきゃ」※1
初めはいつもくだらない話で楽しく笑い合えたのに、意識するほどに用事でもないと話せなくなっていた。
それで愛想を尽かされるってホントにバカみたいだけど、大切すぎてどうしていいか分かんなかった。
苦しかったけど、そういう気持ちって美しかったんだな。
1曲リピート再生にして、改めて向き合ったこの曲の歌詞は、本当に純粋できれいだった。
何より、そういう曲を歌ってくれる人がいることが、とても嬉しかった。
これがthe pillowsとの出会いの顛末。

今から思うと、あれって恋の始まりを歌った曲なんだけどね。前途多難なあの感じ、恋の終わりの報われなさにも効いたんだなあ。
『Ladybird girl』は大人になった今でも大切な1曲だ。

あの頃の自分は、誰かの期待に応えるように生き、生まれた街しか知らず、生まれた街でこれからも暮らすんだろうと思っていた。でも本当は夢があった。
その人とは未来の話もした。うっかり夢の話をした。その時、声に出してみて初めて、夢のために生きてみたいと思った。
その人は「いいんじゃない」と笑ってくれた。

今、自分は生まれた街を離れて、新しい仲間と共に生きている。
夢も追いかけつづけている。しかもあの頃想定していたより、かなりいいペースで近づけているように思う。
就職活動も、卒業前も、いつもthe pillowsがそばにいた。
彼らの曲は、辛くて苦しくて孤独を感じるような時の特効薬だ。迷いながら、それでも自分を信じて前に進む人のための歌。
泣きながら『Midnight Down』を聴き、『アナザーモーニング』で目を覚ます。そうやって乗り越えてきた。
『LAST DINOSAUR』を直前に聴くと課題が上手くいく、みたいな自分だけのうれしいジンクスも増えた。

君はもうとっくに忘れて、どこかで新しい人生を歩んでいるだろう。ベボベは大好きなままで今でもよく聴くけど、聴きながら君を思い出す日はもうほとんどない。

べつに君が直接the pillowsを教えてくれた訳じゃない。けど、君と出会い、別れることがなかったら、いまの未来はきっと無かった。
君がいなくなり、それと引き換えに出会ったthe pillowsに今も、多分これからも支えられ続けている。

2019年10月17日、横浜アリーナにて行われたthe pillows 30周年ライブ。
超満員の会場の後方で演奏を見守っていた時、ふと、自分とthe pillowsしかその場に居なくなったような感覚になった瞬間があった。映画の場面みたいにね。

その瞬間に君のことを思い出した。
ああ、えーと、その…久しぶりじゃないか。




※1 the pillows「Ladybird girl」より引用

今回ばかりはほぼ実話です。the pillows のアニバーサリー、本当に本当におめでとうございます!!