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マンガ同人誌、アート系ZINE…… 採算度外視の"自主雑誌"の甘美な世界(『サイゾー』2014年2月号)

二一世紀の自主出版、過去・現在・未来

出版不況という言葉も聞き飽き、毎年訪れる電子書籍元年にも慣れてきた編集者/デザイナー/ライターたちが、新たな活路として期待を寄せているのが「自主出版」の世界だ。まぎらわしいが高いお金を出して自分の本を出版社に出してもらう「自費出版」とは違い、日販やトーハンのような大手出版取次を通さず、編集制作、取引、頒布などの作業を自ら主体となって行うのが「自主」という言葉の意味である。

自主出版には同人誌、ミニコミ、ファンジン、インディーマガジン、リトルプレス、ZINEなど呼び名がいくつもあり、登場した歴史背景や意味はそれぞれ違う。たとえば「同人誌」は最近ではマンガ同人誌のこととイコールに思われがちが、本来は同じ志を持つ人々=同人が作る雑誌のことで、詩も小説も評論も幅広くある。とはいえ正確に使い分けている人は少数なので、ここでは問題にしない。重要なのはなぜ昨今それらが注目を集めているのかだ。
当然ながらそれは、二〇〇〇年代に入ってからもなお規模を拡大し続ける同人誌即売会「コミックマーケット」が一般流通網とは別の経済圏を確立していることの影響抜きには語れない。三日で五十万人以上を集めるイベントは日本中探してもコミケットのみである。コミケットの巨大化は同人シーン全体の活性化につながり(カッコ内はおおよその来場者数)、オリジナル創作同人誌を主体とした「コミティア」(約一万人)をはじめ、文章系の同人誌/ミニコミが多く集まる「文学フリマ」(約三千四百人)、音楽や映像作品など音系同人中心の「M3」(約九千人)、芸大生やアーティストが自作品を扱う「デザインフェスタ」(約六万人/二日)などの即売会も活況を呈している。

さらに自主出版物の常備店/ネット通販店が増加していることも一因だろう。即売会に自分のスケジュールをあわせなくても買えてしまう敷居の低さは新規ユーザの増加を生んでいるはずだ。模索舎、タコシェといった老舗ミニコミ店のみならず、二次創作同人誌を中心に取り扱うとらのあな、ケイブックス、メロンブックスなどの同人ショップは二〇〇〇年代に入るまでに一般書店とは違う流通網として定着していた。コミックジンや恵文社バンビオ店のような品ぞろえに個性を出すお店や、イレギュラー・リズム・アサイラム、リルマグ、フロットサムブックスをはじめZINEを取り扱うお店も二〇〇〇年代中頃から増える一方だ。こうした盛り上がりに触れた人々が「これからはもう自分でやるしかない!」という考えに向かうのだろう。

実際のところ、一人で執筆、編集、デザイン、印刷所入稿まですべてを済ませれば、商業出版と比べて制作費はかなり安くおさえられる(関わる人数を減らせば人件費が下がるのは当たり前)。ただ、コミケットが二〇一二年に発表した調査では、五十冊未満しか売れてないサークルが三二%、年間収支赤字のサークルが約六六%という結果が出ており、そう簡単に売れるわけでも儲かるわけでもないことは釘を刺しておきたい。


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2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定の定額マガジン(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。あとnoteの有料記事はここに登録すれば単体で買わなくても全部読めます(※登録月以降のことです!登録前のは読めない)。『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』も全部ある。

2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定です(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。テキストを発掘次第追…

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