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現実なんてもう沢山!な人のための雑誌ガイド(問題篇)(『ユリイカ』2005年8月号)

これは「雑誌の黄金時代」という特集用に書いた、昔の雑誌を好きに列挙した原稿です。ワタシがこれ以降折りに触れ言及することになる様々な雑誌がこの時点ですでにいくつも登場しています。2005年以降に書いた文章のプロトタイプ、いや、出発点みたいなものですね。たぶんこの原稿を書くまで、ばるぼらというのはインターネットが好きなだけの人だと思われていたのではないか、と自己分析しています。サブカルチャー/雑誌文化について書いたのはこの記事が最初でした。

なお掲載にあたり二つだけ間違いを修正しています(1972年を1971年にしたり)。

前文

ここに掲載した雑誌の何割かは、多分「雑誌の黄金時代」という言葉のイメージとは少し違うはずだし、むしろ今後もこういった企画で取り上げられることはない可能性が高いだろう。選出においてまず決めたのは「偏る」ことだった。「あれを押さえないと」とか「全体のバランスを」とか、そういうことはせず、端っこにあるものほど積極的に選んだつもりである。もちろん定番ともいえる雑誌も並んではいるが、それは個人的な理由に依るところが大きい。『anan』や『宝島』が好きだった人には物足りないかもしれない。
しかし、既知のものを喜び、未知のものを無視する。かわいいものを愛し、グロテスクを排除する。そうした傾向はきっと変わらないと思うけども、洗練されたエディトリアル・デザインに支えられた、斬新な特集と読み応えのあるコラムが載る、物分りのいい雑誌はこれまで何度も評価されてきたのだから、たまには垢抜けないレイアウトに、見覚えのある特集と難解な文章で出来た、不器用な雑誌に光を当てるのもいいだろうと思うのだ(別に今回選んだ雑誌がすべてそうだというわけではないが……)。
いつまでもその存在意義を問われ続ける、難儀な問題雑誌たちに花束を!

本文

HEAVEN
No.1(一九八〇年四月二三日)~No.9(一九八一年三月一日) 、アリス出版、群雄社
 猥褻、ドラッグ、神秘思想、ナンセンス……『Jam』時代のコンセプトはそのままに、羽良多平吉による圧倒的な美しさを放つ表紙デザインで包みこんだ、自販機本の「なんでもあり」感を象徴するビジュアルマガジン。書名は海外『WET』誌によく広告が掲載されていたブティックの店名から取られた説がある。自販機本とは言いつつ、途中から書店売りもなされた。コラージュでページを埋めるスカスカの編集や、無断翻訳に溢れた海外インタビューなど、アートワーク以外で注目すべき読み物は前身の『Jam』と比較してどんどん減っていったが、発売後社長が逮捕されたことで結果的に最終号となった九号は、ネームの量を増やし雑誌らしくリニューアルした、読み応えのある一冊。当時『迷宮』編集長の武田洋一(武田崇元)インタビューは、本物のオカルトフリークの意識の飛び具合を実感できる問題作。六号掲載の丸山浩伸によるアートワークは異様に「今っぽい」。

WX-raY
創刊準備号(一九七九年)、WXY inc
 ダヴレクシィー。季刊。羽良多平吉の事務所WXYによるキャッチ・ウェイヴ・マガジン。同時期(1980年)に戸田ツトム氏による『MEDIA INFORMATION』が出て、デザイナーによる表現のデモンストレーションとして話題になった。蛍光ピンクとイエローを混ぜた独特のオレンジ色の表紙が眩しい。内容はグラフィックや音楽記事、翻訳インタビューなど。裏表紙はデヴィッド・ボウイ。'80年11月に創刊号が出ると予告され、その後何年も広告だけが無数の雑誌に掲載されたが、未だ発売されず、実は広告を作るのが好きだから発売されないのではと噂される。その後光琳社で新雑誌『e-Quiss』を予定するも、出版社の倒産で頓挫。『天国』は出るのだろうか。

劇画アリス
一号(七七年九月二二日)~二九号(一九八〇年四月) 、アリス出版
 東雑(東京雑誌販売)傘下の編集プロダクションだったアリス出版の一般認知度を高めた自販機本。東日販が人件費削減のため試験的に導入した雑誌自動販売機に目をつけ、東雑の社長・中島規美敏がその自販機を大量に買いこみ全国展開したのが自販機本の始まりだと言われる。自社の機械に自社の本を入れれば利益率が高くなるだろうという判断から出版社が作られることになり、たまたま東雑と顔見知りだった檸檬社の小向一実が、七六年頃からグラフ誌の製作を手内職で開始。そのまま小向は檸檬社を退社し、同社で『漫画バンバン』を作っていた亀和田武を誘って、一緒にアリス出版をスタートさせる。グラフ誌の売り上げの好調により、七七年頃から『SOUP-X』『CITY-X』といった記事主体の一般誌(カラーページのみヌード写真)を創刊しはじめ、その流れで生まれた漫画誌が『劇画アリス』である。『漫画エロジェニカ』(海潮社)『漫画大快楽』(檸檬社)との三流劇画論争など、マスコミで何度も取り上げられたが、肝心の売り上げは赤字続きだったらしく、むしろ広告塔に近い役割だったと見られる。東雑が編集に口を出しはじめたことで亀和田は退社し、後任としてコミケット代表の米沢嘉博が編集長に就任。吾妻ひでおの「るなてぃっく」連載あり。

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29,632字
2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定の定額マガジン(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。あとnoteの有料記事はここに登録すれば単体で買わなくても全部読めます(※登録月以降のことです!登録前のは読めない)。『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』も全部ある。

2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定です(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。テキストを発掘次第追…

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