「引きこもり支援」採用キャンペーン 野島運輸
野島運輸㈱(埼玉県草加市)が運営する氷川自動車交通(通称:氷川タクシー)は1月30日から引きこもり支援を目的とした採用キャンペーンを開始した。応募資格は「引きこもりである」「引きこもりであった」ことで、職務経歴などは問わない。
厚生労働省の定義によると、仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせず、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態を「引きこもり」と呼ぶ。
内閣府が2022年に行った調査によれば、15~64歳で引きこもり状態にある人は全国で推計146万人に上り、これは生産年齢人口の約50人に1人という割合だ。2019年に行われた調査では115万人で、そこから約30万人増加している。
増加した原因とされるのが「コロナ禍」であり、調査では約5人に1人が引きこもりを始めた理由について「新型コロナウイルス感染症が流行したこと」と回答している。
また、引きこもりの半数は期間が7年以上に及んでおり、長期化の傾向が見られている。
この状況に対し、氷川タクシーは引きこもりの就業支援を目的とした採用キャンペーンを開始した。応募資格は「人間関係で悩み休職や退職を考えている、またはしたことがある」または「引きこもりである、あった」のみで、職務経歴などは問わない。
また、「氷川タクシーの内定が心の支えになれば」という考えから、内定の有効期間が3年設けられており、内定が決まっても即承諾する必要はない。
タクシー業界では、コロナ禍によりドライバーの数はこの4年間で2割減少。高まるインバウンド需要への対応が難しくなっている。今回のキャンペーンはそういった人材不足の解決を図る取り組みでもある。
同社のタクシードライバーには、元引きこもりだったり、うつ病を患っていた人が皆普通の人と同様に働いている。
旅客部部長の大角健泰氏は、「引きこもりだった人は、会社から求められる能力や成果を達成できずに悩まれる方が多い。その点、タクシードライバーは営業の必要がなく、頑張った分だけきちんと給料を稼ぐことができる。
弊社ではノルマを設けておらず、競争環境もないので安心して働ける。この採用キャンペーンで、引きこもりの方が社会復帰できることに少しでも寄与できれば幸い」と話す。
野島運輸は昭和43年に創業したが、定年を迎えたトラックドライバーが無理なく働ける場を作るのを目的に、平成18年にタクシー事業を開始した。同社は業界の慣習にとらわれない新しいやり方を積極的に取り入れており、中でも売りとしているのが「ドライバーの働きやすさと自由度の高さ」だ。
タクシー業界では「午前10時から翌日午前6時まで」「午後4時から翌日午前12時まで」といったように、1回の勤務で2日分働く「隔日勤務」の事業者が多い。隔日勤務は1回の勤務時間が20時間前後に及ぶので心身への負担が大きい。
氷川タクシーでは昼間に働く勤務体制、夕方に出社して翌朝まで働く勤務体制で、勤務日数や休日、勤務時間などはドライバー側が自由に決める。給料は歩合制で頑張った分だけ稼げる一方、売上ノルマは存在せず、連絡すれば当日でも仕事を休むことができる。
こういったドライバーの働きやすさを第一に考えた仕組みを作り上げたことで、同社には若手のドライバーが多く在籍している。仕事へのモチベーションも高いという。
大角氏は「今回の取り組みでタクシードライバーが集まることで、他社も真似てドライバーの働き方改革などを行い、ひいてはタクシー業界全体の人手不足解消に繋がることを期待している」とコメントしている。(4月15日号)
【写真】キャンペーンで使っているイラスト