ギガントシャーク 第四話 暴角、襲来
この日、マーク、ブレット、ミスティはジープに乗ってアメリカ、アリゾナ州の広大な荒野を走っていた。
「ふぅ。アメリカに戻るのは久しぶりだぜ。」
「俺たちずーっとアフリカらへんにいたからなぁ‥」
「楽しかったなぁ。ライオンのオデコにタッチしたり、カバにギリギリまで近づいたり‥」
「ブレットのやることはいつも危なくてヒヤヒヤするよ。」
「今はそれより危ない仕事してるけどな。バカでかいスーパー害獣と戦ってる。」
「そしてコイツも一緒。」
赤い砂の荒野から巨大な背鰭が飛び出す。ギガントシャークだ。
「お前、地面の中も泳げたのか?」
「当たり前よ。サメに行けないところはないぜ。」
「しっかしだいぶ目立つなぁ‥」
「目立った方がいいだろ。」
「ミスティさん、今日は何をしに?」
「砂漠の外れにあるムーンクリフという小さな町よ。ここ近辺にはネイティブアメリカンの伝説があるの。赤い星が近づく日、巨大な角を持つ怪物が目覚め、暴虐の限りを尽くす。赤い星は恐らく火星。そして明後日は火星が地球に接近する日。」
「そんな言い伝えまで調べてるのか?」
「私たちは世界中の伝承、民俗説話を蒐集してる。時折物語は真実を語るわ。」
「そういうの最高。俺はこう見えて民俗学大好きだからな。」
「昔話よりMCUの方が面白いだろ。」
「ブレットにはロマンがないなぁ。」
「俺は古生物にロマンを感じるね。」
「あなたたちに朗報よ。怪獣対策機構はその二つの分野を主軸に怪獣を研究してるの。世界の怪物や妖怪に纏わる伝承から怪獣の生態を予測し、現れる前から対策を立てる。怪獣は太古の生物が変異したものという説もあるから古生物学も怪獣の研究に役立てられているわ。」
「まぁ、どっちにしろ今までの旅よりずっとスリリングになることに変わりはねぇ。」
「よく楽しめるなぁ‥」
「ポジティブに行こうじゃねぇか。」
「話を戻すわね。伝承によるとその怪物は巨大な角と灼熱の炎で当時最も栄えていた村一つを滅ぼし、この地全体にも大きな禍根を残したとされているの。そしてまた地の底に帰って行ったとされているわ。退治されたとは書かれていないから、これが本当ならまた現れることになる。」
二人は頷きながら話を聞く。
「そしてこの近辺で最近、間欠泉が確認されてる。地下の温泉脈が確認されていないところからね。これも怪獣出現の前兆ね。」
ミスティは話を続ける。
「あれを見て。岩肌に何かで削られたような巨大な跡があるでしょ。あれは怪物の角が当たった跡だと伝えられているの。」
さらに進むと、等間隔に並んだ窪みが現れた。
「あの窪みが見える?あれを空から見ると巨大な足跡のような形状をしてるの。私たちはこの地における怪獣の存在を確実視してるわ。」
「なんか陰謀論系YouTuberのこじつけみたいだなぁ。」
「バカ、怪獣を三回もこの目で見ただろ。ありえない話じゃねぇよ。」
「そうなんだけど‥どうも信じられなくてさ‥」
「まぁ、それが当たり前の反応ね。誰でも始めは信じられないわ。」
そうしているうちにジープはムーンクリフの街に着いた。木造建築の民家が並び、酒場もある。西部劇を思わせる古い街だった。
街に入るとネイティブアメリカンの血を引いていると思われる初老の男が立っていた。
「よくお越しくださいました。」
「はじめまして。怪獣対策機構のミスティです。」
「この町の保安官のカウアといいます。大角の怪物のことを警告しても、迷信だと言われて誰も相手にしてくれず‥ちゃんと話を聞いてくれたのはあなただけです。」
「私たちはそういう話を信じます。それが仕事ですから。」
「ありがとうございます。私たちは代々、大角の怪物について語り継いできました。私も幼少期、祖父や父親から話を聞きましたが、その目は真剣そのものでした。怪物が迷信でないことは確信しています。」
カウアはそう言うと、ミスティたちを事務所に招いた。シャークはひとまずパウエル湖で待機することになった。ミスティたちが事務所の椅子に座って一息つくと突然地震が起きた。
「うおっ!」
すぐにおさまったものの、かなり大きな揺れだった。
「またか‥」
カウアが憂いを込めた瞳で呟く。
「最近、多くてですね‥赤い星の接近も近く、大角の怪物の目覚めも現実味を帯びて来ています」
「その伝説の怪物はきっと怪獣です。その日に現れる可能性は高いでしょう。」
「怪獣‥あんな生き物がいたとは‥私もエジプトの映像を初めて見た時は驚きましたよ。あのサメ君は我々を守ってくれるのでしょう?」
「はい。性格に問題がありますが、怪獣の対処には本気で協力してくれます。」
「頼みますよ。」
その晩から次の日まで、断続的な地震が相次ぎ、間欠泉が次々噴き出た。そしてとうとう火星接近の日がやって来た。
「ミスティさん。今日、本当に現れるのか。」
「えぇ。その可能性が高いわ。」
「前みたいに生命反応を調べたりは?」
「それが、今回は完全な仮死状態になってるみたいで、生命反応がなくて正確な場所が掴めないのよ。だから予想される全ての場所に電磁レーザー砲を配備してるわ。いざとなればシャークも来るしね。」
道路沿いには電磁レーザーのパラボラが並べられており、シャークはパウエル湖の底でその時を今か今かと待っていた。そして正午を回ったころ‥
ゴゴゴゴゴゴ‥
突然大地が大きく揺れた。これまでの地震とは比べ物にならない揺れだ。そして赤い大地に大きな亀裂が入り、大量の間欠泉が噴き出す。そして亀裂の間からまさしく伝承通りの巨大な角が現れた。
「出たぁ!」
マークが叫ぶ。
白く輝く水牛のような大角の下から肉食恐竜に似た威圧感溢れる顔が姿を現した。血のように赤い目がギョロリと動く。真っ黒で装甲のような皮膚に覆われ、二足歩行で立つそれはまさに「怪獣」と呼ぶに相応しい姿をしていた。怪獣はシューっと荒く鼻息を吹き出し、
グモォォォォォォォッ!
と巨大な咆哮を上げた。
「まるでゴジラだ‥」
「怪獣って感じだな。」
「名前はミノサウルスにしましょう。怪獣らしくていいでしょ。」
「呑気に命名してる場合か!」
「そうね。攻撃準備にかかりましょう。」
ミノサウルスは巨大な角を崖の岩肌に突き刺し、岩の欠片を飛ばしてきた。岩は電磁レーザー砲の発射台がついたトレーラーを次々直撃し、破壊していった。
「アイツ、意外と頭が切れるぞ!」
「想定外の事態ね。でも、私たちには彼がいるわ。」
ミスティがそう言った時、パウエル湖の方から巨大な水音が轟き、細く筋肉質な腕が崖から飛び出した。ギガントシャークだ。
「待ってたぜぇ。」
シャークはお決まりの台詞を吐くと、ミノサウルスに向かい合った。
グモォォォォォォォォォォッ!
「かかってきやがれ。デカ角野郎」
シャークが中指を立てると同時に戦いのゴングが鳴る。ミノサウルスは大地を揺るがしながら巨大な角を振り翳し、突進してくる。シャークはその巨体をガッチリと受け止める。
「ぬおおおお!」
「スモウだ!」
「やれやれ!」
ブレットとマークがシャークに声援を送る。
「気をつけてちょうだい!足元に町があるわ!」
すり足をするシャークの足元にはムーンクリフの町があった。避難は完了しているが、人々の大切にしている町を踏み潰すわけにはいかない。
「ぐぉぉ‥このやろ‥」
シャークはミノサウルスの凄まじい力に抗う。しかし、徐々に押されていく。そして吹き飛ばされシャークは崖に激突する。再び猛進していくミノサウルスを前にシャークはすぐに起き上がって立ちはだがる。強烈な突進を抑え込み、胴体を掴む。
「シャーク背負い投げ!」
シャークはそう叫ぶとミノサウルスの体を投げ、地面に叩きつけた。だが、そのはずみでムーンクリフのはずれにあるパブが一つ潰れた。ミノサウルスが起き上がり、角でシャークの体を突く。シャークはバランスを崩して倒れかけるも、なんとか持ち堪え、ミノサウルスの頭部にチョップを見舞う。
グモォォォォォッ!
ミノサウルスの右の角が折れ、地面に落ちてムーンクリフの街の民家に突き刺さる。
ブルルル‥
ミノサウルスは角を折られたことで苛立ち、シャークを睨む。
グモォォォォォォォッ!
そして咆哮を上げながらシャークに襲いかかる。ミノサウルスはシャークの手に噛み付く。シャークは乱暴に手を振り、ミノサウルスの巨体を振り回し、地面に叩きつける。ムーンクリフの民家が3つ潰れる。起き上がったミノサウルスはまたも突進し、シャークを弾き飛ばす。角が片方だけでも凄まじい力だ。尻もちをついたシャークは向かって来るミノサウルスを見て立ち上がり、また角を掴んで地面に叩きつける。シャークはさらに怯んだミノサウルスの体を蹴り上げる。ミノサウルスは起き上がってシャークの方を見ると、口の中を赤く燃え上がらせた。
「来るわ!気をつけて!」
ミスティが言う。その刹那、ミノサウルスの口から業火が飛び出した。それを見たシャークは背鰭を光らせ、雷鳴を轟かせ
「シャークサンダー!」
と叫んだ。シャークの吐いた雷が業火とぶつかり、せめぎ合う。あたりが青と赤の閃光に包まれる。やがてシャークの雷がミノサウルスの業火を押し始める。雷はどんどんミノサウルスの炎を押していき、ついにミノサウルスを崖に叩きつけた。その瞬間、ミノサウルスの体は爆裂し、赤茶色の体液が飛び散り、ムーンクリフの街の半分を染め上げた。
「はぁはぁ‥決まったぜぇ‥」
「やっちまったなぁ‥」
「どうするよコレ‥」
マークとブレットは体液がべっとりとこびりつき、家の屋根に巨大な角が突き刺さった町を見ながら呆然とそう言った。
「カウアさんにはお詫びしなくちゃね‥」
ミスティがやるせなさそうに言う。シャークはガッツポーズを決めながらミノサウルスの残骸をガシガシ蹴っていた。
その後、怪獣対策機構の衛生兵たちによる綿密な清掃によって町は綺麗になりつつあった。幸いにもカウアは寛大で、角が刺さった家は町の観光資源として役立つとむしろ喜んでいた。一行はムーンクリフを後にする。
「シャーク、あんまりやりすぎんなよ。」
「街中で怪獣を爆裂させる時は慎重にやってくれ。」
「うるせぇな。オレ様はオレ様のやりたいようにやるんだ。口を出すな。」
「こら!なんだその態度は。」
「まぁまぁ。私が後でゆっくり教えるから。」
「ミスティさんは甘いなぁ。」
そんな話をしていると、ミスティの携帯が鳴った。彼女は車を止めて電話に出る。
「もしもし。ミスティよ‥なんですって!すぐに向かうわ。」
ミスティは電話を切る。
「どうしたんだ?」
「大変よ。伝承関連の怪獣案件が動きを見せたの。すぐ日本に向かわなきゃ!」
「また日本か!」
「せわしないなぁ。」
「よっしゃ!また派手にやるぜぇ!」
「今度は加減しろよ。」
シャーク一行の慌ただしい旅路はまだまだ続く‥
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?