見出し画像

いつもの検診の話

2016年12月の腫瘍摘出の手術以降、2-3ヶ月ごとに病院で経過観察の検査をしている。本来は1年間再発が見つからなければ、6ヶ月ごとの検診で良くなるのだけど、今のところ1年経つギリギリのタイミングで再発が2度見つかっている。気づけば、3年半も2-3ヶ月に1度のペースで築地の病院に通っていることになるし、せっかくだからいつも感じていることを記録しておこうと思う。


検診の日は楽しい。夫が車で病院まで連れて行ってくれて、1日中一緒に居てくれる。ドライブデートみたい。特にいまはCOVID-19のせいで、あまり外に出ない生活をしているから、車で長距離移動は楽しい。車の中ではマスクをはずしていられるから口紅もして出かける。(病院に着いたら、もちろんマスクをする。)夫が音楽のプレイリストを選んでくれて、楽しい気持ちで病院に向かう。

【採血】

病院について受付をしたらすぐに採血。わたしの腕は、血管がとりやすい方ではないらしい。一瞬で終わるときもあるけど、看護師さんによっては注射針を刺してからグリグリと血管を探して結局やり直す。しょうがないことだけど、いつも「今日はわたしのような血管に慣れている看護師さんに当たりますように」と願っている。毎年4月頃はちょっと緊張する。年度初めで病院に新人の看護師さんがたくさんいる気がして、いつもより少し心細い。(けど今年は、感染拡大防止のためか少数先鋭ベテラン部隊でまわしてたように思えた。)注射針が自分の皮膚を貫通して入っていくのは怖くて見れないけれど、スムーズに進むなら採血自体は好き。血液が、容器にピューっとたまっていく様子はいつも楽しいし、毎回いちいち血液の色にちょっと驚く自分がおもしろい。

【造影剤CT検査】

採血の後は、造影CT検査。放射線科の受付で、夫がいつも自分のリュックからスッと「検査同意書」を出してくれる。緊急連絡先も署名もすべて記入済み。書類整理がじょうずな夫、ものすごく頼れてありがたい。わたしの治療関係の書類はすべて彼がファイリングしてくれている。逆の立場になっても同じことができる自信が全然ない。

CT検査は楽しい。検査の日は金属やプラスチックがついていない服を着るようにしているので、着替えをしなくて良くてラクチン。きっとユニクロのブラトップが市民権を得てから、病院の検査着の洗濯量がとても減ったんじゃないかと勝手に想像している。身支度が済んだら、造影剤(画像診断がやりやすいように血管から入れるお薬)を入れるため、また点滴針を刺す。それが済んだら検査室に案内される。

造影剤が身体に注入されるときは少し緊張する。針が刺さった腕を、バンザイをするみたいに上にあげた格好で、自分がものすごく無防備な状態であるように感じる。「痛かったら言ってください」と看護師さんや技師さんは言うけれど、それがどの程度の痛みなら言うべきなのかよく分からない。血管から造影剤が漏れ出たらどうしようという恐怖がつねにある。腕に少し違和感があっても、付き添いの看護師が「ちゃんと入ってます」と言うので信じるしかない。そしていつも身体が順番に熱くなっていく。(これは薬剤が一気に注入され血管が拡張するために熱を感じるらしい。いま調べるまで知らなかった。ずっと温かい液体を注入しているのだと思っていた。)身体の真ん中、喉の奥、お腹の下(お漏らしをしたような感覚になるのが不思議)、それから熱さが手足の末端へじんわりと広がっていく。液体の巡りを感覚で感じるのはいつも面白い。その感覚を味わっていると、あっというまに検査が終わる。看護師さんが「大丈夫ですか。フラフラしたり吐き気があったりしませんか」と何度も聞いてくれる。

【診察】

診察の待ち時間がいつも一番長い。CT検査の前は2時間食事禁止だから、お腹が空き始める時間帯。受付番号で呼ばれ、夫と一緒に診察室に入る。主治医の先生が、画像を見せながら検査結果を教えてくれる。それに対して夫が熱心に質問をしてくれたりして心強い。夫がどんどん「がん」や「新しい治療法」について詳しくなっていることにいつも驚く。先生の言葉を、同じタイミングで、同じ重さで、きちんと受け取ってくれる家族がいるというのは幸運なことだなと本当に思う。

【会計とその後】

診察が終わったらお会計(検診は、だいたいいつも1万2000円くらい)。だいたい15時半頃。

以前は病院の19階のレストランでお刺身定食をたべるのが楽しみだったけれど、感染症がこわいから最近は車の中でおにぎりやサンドイッチを食べる。駐車場屋上の眺めのいい場所に車を移動して、築地市場跡地や浜離宮の上空を飛ぶ鳥たちを眺めながら、夫とふたりでのんびりご飯を食べる。車中ピクニックみたいで楽しい。食べ終わったら家路につく。だいたい17時頃で徐々に道が混んでくる。夕日で空がオレンジ色やピンク色になっていってきれい。銀座、皇居、国会議事堂、四ツ谷、新宿の街を車窓から眺める。たまに高級スポーツカーが走っていて興奮する。


ふだんは普通に暮らしているけれど、病院で、腕に採血や造影剤の注射のあとが増えていくのを見ると「自分はこの病院(国立がん研究センター)の患者なんだなぁ」と実感する。幸い病院は嫌いじゃない(むしろ好き)だけど、病院名が病気名をあらわしていてなんだかふしぎな気持ちになる。

注射の痕をに夫に見せると、夫が「注射痛かった?検査えらかったね」とより一層優しくしてくれるので、病院の夜は少し弱ったふりをして、最大限にわがままを言う。お寿司が食べたいとか、天ぷらが良いだとか、特権を行使して帰宅後にUber EATSでまた夕飯を探す。検査の結果が良くても悪くても、病院の日が楽しみでいられるのは夫が甘やかしてくれるおかげも大きいと思う。ラッキーだとしか言いようがない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?