弘福寺(川原寺) 明日香を渡る風

 「ぐふくじ」とお読みします。奈良県明日香村にある真言宗のお寺です。
 
 案内して頂いた本堂には、重要文化財の多聞天様と持国天様がおられました。また、側には、たいへん愛らしい十二神将様もいらっしゃいました。
 なぜか分かりませんが、御本尊の十一面観音様と、そのお隣の地蔵菩薩様と、反対隣の小さな薬師如来様が、私には御兄弟の様に見えました。
 たいへん控えめで、大人しそうな印象の薬師如来様に対して、他の二体の仏様は、どちらもツンとすました様なお顔をされていました。
 弟のような薬師如来様が「お兄さん達、そんなにツンとしなくても良いのに。」とおっしゃられているのが聞こえてくるような気がしました。
 
 ところで、このお寺は、日本で初めて写経が行われたところです。私も勧められるままに、初めて写経させて頂きました。
 しばらく写経をしていると、開け放たれた窓から心地良い風が流れてきました。
 窓の外を見ると、左には甘樫丘が見え、右のほうは飛鳥川まで一面の緑です。風は、その草原の上を渡ってきていました。
 私は、写経の手を止めてしばらく爽やかな風に吹かれていました。

 弘福寺さんは、かつて飛鳥四大寺と言われた「川原寺」のあった場所に建っています。(ですので、弘福寺さんは、川原寺と呼ばれることが多いです。)
 その遺構が保存、整備されているので、お寺の周囲が平城京跡の様な広い草原になっているのです。

 あまりの心地良さにうつらうつらしている間にも、香久山から吹く風は、静かな写経場を絶え間なく通り過ぎていました。1400年前この場所で写経をした人も、この風を感じたのでしょうか。

 明日香でも、弘福寺さんは最も心が安らぐお寺の一つです。とにかく気持ちの良いお寺です。是非晴れた日に、行かれてみて下さい。

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〈拝観に際して〉
 お寺には、「花つばき」という名の御食事処があり、予約すると、麦とろ御膳等のお料理が頂けます。