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僧侶としての使命とは

僧侶になり初めて葬儀に行った話です。
先輩僧侶と同行して葬儀に言っていた頃の話です。
故人様(以下、たかひろ:仮名)は、20代前半の男の子で、不慮の事故で亡くなった方でした。

僧侶としてどのように仏法を伝えていくのか。突然の死に家族の悲しみとどう向き合うのか。自分自身どのように振る舞うべきなのか。答えが出ないまま、通夜に先輩と向かいました。

式場では、参列者が多く、同級生とみられる方で溢れていました。通夜の勤行が終わり、先輩僧侶がどのような法話をするのか見守りました。

「通夜は、故人様についてお話をする場であること。お釈迦様は生老病死を説き、人は必ずこの身を終えること。通夜葬儀は別れるための儀式ではなくて、故人様に出遇っていく場であること。故人様と出遇いなおし、願いがかけられていること。」

先輩が話す法話を喪主様は終始泣いておられたので法話が届いているかは分かりませんでした。そして法話を終えた先輩とともに私たちは式場を後にしました。

そして次の日、葬儀を迎えました。
葬儀も何事もなく進行し、最後の喪主様が挨拶をする時のことです。
「この度はご多忙の中、ご会葬たまわりましたこと、心よりお礼を申し上げます。・・・」
と形式的な挨拶が続きました。

喪主様が途中で挨拶を止め、少し沈黙が続いた後に、再び口を開きました。すると今までの挨拶よりも声がはっきりと、そして大きくなりました。

「私は、たかひろのことをあまり知りませんでした。学校でどのように過ごしているのか、部活でどんな様子だったのか、もっと知りたいことが山ほどあります。だから、たかひろの友達は、私の家にきて教えてください。美味しいごはんを用意して待っています。もっともっとたかひろに出遇いなおしたいです!」

じっと静かに聞いていた参列者の方が、この言葉を聞いたときに同時に泣き出したことを覚えています。喪主様の本当の想いが、参列者の心に届いた瞬間でした。
法話を通して喪主様に仏法が届き、そして気持ちに少なからずの変化があったのではないかと思いました。

しかし喪主様の悲しみや苦しみは癒えたわけではありません。

僧侶は悲しみに寄り添い慰めるのではなく、亡き人を縁に残された人に、仏法を伝え、生きる糧としていただくことであると。

その僧侶としての使命を改めて教えていただいた葬儀となりました。

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