先生! ホシを見せてあげる(ショートショート)
ある保育園での出来事。
「先生! ボクのパパ、スゴいんだよ」
「あらぁ、けんたくんのパパはスゴい人なのね。何がスゴいのか先生に教えて」
「うん、パパはスゴいんだよ。だってね、この前ホシを捕まえたんだ」
けんたくんは嬉しそう。ホシなんて捕まえられるわけないじゃない。でも、子どもの嘘には慣れっこだから、わたしはこういう時、どんな反応すればいいのかだいたいわかってる。
「ホントに? スゴいスゴーい! 先生ホシは見たことあるけど、捕まえたことないなぁ」
こうやって両手を広げて、大袈裟に驚いてみせるのがわたしのセオリー。その辺の下手な保育士にはマネできないでしょ。
「じゃあ今度パパがホシを捕まえたら、先生にも見せてあげるね」
ほらっ、けんたくんも嬉しそうに目を輝かせてる。子どもなんてチョロいチョロい。
「わぁ嬉しい、先生楽しみだなぁ」
わたしはホシを探すように空を見上げた。まっ、演技ですけど。内心、ホシなんて捕まえられるわけねぇよクソガキ、って思ってるけどね。
「先生、それじゃまたね」
「うん、まったねぇー、タァーッチ」
こうやって手と手を合わせてスキンシップ。良い保育士ってのは、わたしみたいな絶妙な演技のできるベテラン保育士のことを言うのよ。そう、今のわたしは保育士を演じるカリスマ女優。
テキトーに子どもの機嫌取って、テキトーに時間を潰せば1日は終わるのよ。これぞストレスフリー。
「タァーッチ、楽しみにしててね」
けんたくんはママと手を繋いで帰って行った。
翌日
保育園にパトカーがやってきた。
いったい何があったのかしら?
職員総出でパトカーへ向かう。緊張が走る。
カチャッと車のドアが開く。中から出て来たのはけんたくんと、スーツ姿の警察官だ。
警察官は敬礼すると「息子がお世話になっています」と一言。もしかして、けんたくんのパパって……。
「先生、昨日パパがホシを捕まえたから見せてあげるね」
けんたくんのパパが後部座席を開けると、手錠を掛けられた見窄らしい男が出てきた。
「けんたくん、もしかしてホシって……」
「うん、犯人(ホシ)だよ。昨日パパが捕まえたんだよ」
そっちか。
けんたくんが「みんなにも見せてあげる」と、園内にホシを連れて行こうとしたのを、わたしは全力で止めた。
この時ばかりは演技なんてしている場合ではなかった。
「やめろクソガキィ」
※この作品は何に応募したかは忘れましたが、落選作品です。
当時様々なショートショート作品を読み漁って「ショートショートってのは言葉遊びが重要なんだな」と、色々といらない勘違いをしたことがきっかけで書いた作品です。
お恥ずかしいですが、読んで頂いた方はありがとうございました。
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