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サービス検討担当の法務部員が最低限押さえておきたい管理会計

法務パーソンは、会社で新サービスの検討等について伴走を担当することも多いかと思います。それにあたって、事業担当者と会話するにあたり法的知識だけでなく、管理会計の知識も持っておいた方がよいでしょう。
個人的に特に知っておいた方がよいと思う内容についてまとめておこうと思います。

1 固定費、変動費

まず固定費と変動費を紹介します。

①固定費:売上の増減にかかわらず発生する一定額の費用
 …家賃・地代、減価償却費、水道光熱費等が一般に該当します。
②変動費:売上の増減によって変動する費用
 …原材料費、仕入原価等

費用を上回る利益を上げなければ利益は出ません。売り上げは単価×数量になりますので、費用を把握しなければ価格はつけられません。
法務部員は、価格設定において最低限変動費を確保できる値付けがされているかを必ずチェックしなければなりません。公取委が『可変的性質を持つ費用を下回る価格は,「供給に要する費用を著しく下回る対価」であると推定される』と見解を示しているように、変動費を確保できない価格にすると不当廉売リスクが非常に高いものになってしまいます。

2 限界利益、限界利益率・損益分岐点売上高

次に知っておいてほしいのが限界利益・限界利益率・損益分岐点売上高です。

③限界利益=売上高ー変動費
④限界利益率=限界利益÷売上高×100
⑤損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率

限界利益率が高いほど利ザヤが大きいということになります。値付けに際して限界利益率を意識しなければ、営業部門が頑張って売っているのに、働けど楽にならざり我が暮らし、という状況になりかねませんので、この概念はとても重要になります。
参考文献(下記)では限界利益率のことを「儲けパワー」と呼んで最重要視しています。また、限界利益率と固定費が特定できれば損益分岐点売上高が算出でき、損益分岐点売上高を単価で割れば数量が出せます。

すなわち、上記5つを把握することで、どのくらいの価格でどのくらい売らなければならないかがシミュレートできるようになります。これによって、事業の戦術を考えるにあたり重要である、当該商品のペルソナがシミュレートで出てきた数量を確保できるボリュームがあるのかや当該価格で購入するニーズがあるのかといった点を具体的に検討できるようになるのです。

3 値上げ・値下げ

取引先から値下げを求められたり、そもそも競合他社が値下げ攻勢をかけてきたとき等値下げ圧力がかけられることはしばしばあるでしょう。この時にも上記の概念が検討の役に立ちます。

例えば、単品ベースにした際に3000円の商品で変動費が1500円、固定費が50万円だったとします。
そうしますと現状では、限界利益は1500円で限界利益率は50%で損益分岐点売上高は100万円で334個売って初めて黒字になります。これを1割値引きすると限界利益は1200円で限界利益率が約44%で損益分岐点売上高は112.5万円となり417個売って初めて黒字になります。
つまり1割の値下げにより25%販売個数を増やさなければならなくなりますので、値下げにより個数の増加がどれだけ見込まれるかで値下げをするかしないか、するとしてどの程度にするかということが検討できます。

上記の例で把握しておくべきなのは、価格自体の変化の幅以上に利益や必要な販売個数への影響が大きいという点になります。逆に言えば値上げは限界利益率改善にとって効果的ということになりますが、買い手が減ってしまうおそれがあります。値上げをする商品かの選別に当たっては例えば下記のような視点で検討するもの一手でしょう。

・限界利益率が低い商品か
・多少売れなくとも困らない商品か
・会社のイメージに与える影響が小さい商品か
・値上げ分他の付加価値を付けられるか

4 利益を上げるには

現状より利益を上げるにはざっくり分けますと下記の4つの方法になります。

①価格を下げて販売数を圧倒的に伸ばす
②同じ価格のまま販売数を伸ばす
③価格を上げて販売数を維持するまたは少し減らす
④費用を下げて販売数を維持するまたは少し減らす

いずれを取るべきかは競合の状況や自社の財務状況によるところになりますが、その検討において上記1~3での概念が役に立つでしょう。また、日本企業は不景気時に安易に④を選び人員整理、採用抑制、下請けいじめが生まれましたが、結果として人材の流出や日本市場自体の縮小を招きいわゆる「失われた●年」となりました。
上記のいずれを選ぶにせよ、簡単に実現できるからで選ぶのでなく各種状況を吟味し、最適なものを選ぶ姿勢を忘れてはいけないと考えております。

【参考文献】


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