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株式交付信託の概要

6月も末頃となり株主総会を終えた企業も多いかと思います。近年は役員報酬に株式報酬を導入する動きが活発化していますので、その一種である株式交付信託について概要をまとめます。

1 株式交付信託とは

役員のインセンティブ報酬として、欧米のRestricted StockやPerformance Share類似の報酬制度実現に信託を用いる報酬制度であり、概要は以下になります。
①会社が信託に金銭を拠出し、信託は拠出金を原資に会社株式を取得し信託財産にします。
②役員は、受益者候補者として、ポイントを付与されるます。
③役員は、役員退任等一定の条件を充足するとポイントに応じて受益者として株式を取得します。
※付与ポイントを業績連動させるとPerformance Shareに、固定するとRestricted Stockに類似。
※議決権は行使できず、また配当金は役員に還元されません。
※株式の売買等を伴うためインサイダー情報がある場合は信託財産組成はインサイダーフリーまで待つことになります。

株式交付信託は、三菱UFJ信託や三井住友信託で取り扱っており、前者の下記URLのページにて商品概要を説明しています。

2 法的位置付け

(1)会社法上の位置付け

【役員報酬決議】
取締役のインセンティブ報酬として利用する株式交付信託は、取締役の報酬である以上、株主総会で取締役報酬に関する決議が必要になります(会社361Ⅰ)。株式交付信託の以下の性質から、株主総会では会社法361条1項1号ないし3号の決議を合わせて得ておく必要があると考えられています。
- 確定報酬:役員への報酬として、報酬に相当する額を信託に拠出する。
- 非確定報酬:業績や株価に連動してポイントや株式が変動する(※)。
- 非金銭報酬:最終的には株式が交付される。
※変動しないスキームにした場合はこの点は該当しなくなります。

【自己株取得該当性】
信託スキームであるため、名義は受託者(信託銀行)になるものの委託者が受託者の監督権限を持つところ、「会社の計算による」取得であり自己株式取得ではないかが論点となります。言い換えれば株式交付信託が自己株式取得の潜脱にならないようにすることが要請されているということになります。この点は、以下①~③のような事情から「会社の計算による」取得でないと整理できると考えられているため、下記を変更するような内容の提案に信託銀行(受託者)は原則として応じてくれません。
① 役員へのインセンティブという正当な目的を有する。
②信託は株主総会で議決権を行使しない。
③株式報酬関連規程等で事前に運用について詳細なルールを定めており、かつ独立した信託管理人を設置するので、信託は会社から独立している。

【その他】
受託者が信託財産を構成する会社株式を取得するにあたり、市場買付にすれば問題にならないものの、自己株式の処分や新株の発行を行う場合にはそれぞれについての会社法上や金融商品取引法上の手続きをとらなければなりません。

(2)金融商品取引法上の位置付け

株式交付信託は、株式を取り扱いますところ金商法上の論点が生じます。特に、株式の取得や交付の場面においてインサイダー取引(金商法166Ⅰ)が問題になるので以下のような運用がされています。
【株式交付信託制度導入】
これはバスケット条項に該当する可能性が高いと考えられているのでインサイダー情報として扱い、公表されるまでは関係者は自社の株を取引きしないようにしなければなりません。

【 信託による株式市場買付け】
委託者(発行会社)は、受託者に対し、受託者が買付を始める直前において重要事実がないことを表明保証をします。

【信託から各役員への株式交付や現金給付のための株式売却】
信託組成のタイミングで「知る前契約・計画」を証券会社に提出し、上記交付等はその計画のとおりに実施しなければなりません。

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