1-25 concrete epic
おまえは倫理と国語と英語の3科目選択受験可能な大学を片っ端に受験しみごと東京の私立大学教育学部家庭学科裁縫コースへ補欠合格さっそく長崎から上京したが定員がおまえまで回ってこなかったとはしらずに3ヶ月ほど登校し授業を受け続けていたが夏休みの直前学部の教務補助員に呼び出され「おまえは入学していないし学生名簿にも載っていないなりすまし学生なのでどうどうと来ないで欲しい」と1時間程説教されただからおまえだけ名簿に名前がないし学生証はもらっていないし未払いの入学金の請求も無いし奨学金申請もとおらなかったし課題を提出しても先生から変な顔をされていたし同級生はだれも話しかけて来ないし毎回授業終わりに事務から呼び出されわけのわからない事をごちゃごちゃ言われていたのかと大学生活におけるあらゆる謎が解明された教員室を出るとひとまず落ち着こうと構内のベンチに腰掛けハイライトに火をつけゆっくり燻らせた陽射しはもうすっかり夏だしばらくタバコをふかしていると昼休憩を告げるチャイムがひびき渡きわたり各学部棟から学生たちが溢れ出してきたあと数日で夏休み若者にとって夏の日差しは性欲へのカンフル剤だ彼らのからだにやどる情欲のマグマは他者との結合を求め自身の理性を焼き溶かす夏の突き刺すような陽光に焦がされいまにもはちきれんばかりに赤黒く充血したプリップリの精巣と卵巣には艶かしいオツユがパンパンにつまっているのだ大学生とは教育という長きにわたる屈従と恥辱に耐え社会人という終身奴隷制度に強制加入させられるまでの猶予期間を親の金で購入した「絶対的自由の謳歌を許される身分」そのなかでも夏はもっとも理性をふっきれさせるフィーバータイムなにをしたって許されるそう無敵かれらは夏が近づくと適当な理由に託けて性行為にあけくれるもっともらしい理由があればなんでもよい欲望の合理的説明など巨大な泥沼の上に高層マンションを建てようとする行為に等しくどれだけ強引で粗末なストーリーテリングであろうと真面目に突っ込む連中はいないかれらの若々しい身体は夏の日差しに照らされるとガマガエルのように全身の毛穴から情欲の粘液を分泌し6月あたりから突然筋トレやダイエットに目覚め競うように度数の高い酒を飲み頭をふり乱しながら音割れしたEDMで朝まで踊りくるい吐瀉物に塗れた床の上で笑い転げフローリングを腐らすほど何度も股から潮を吹きベッドに入ればドラマのワンシーンのように熱い愛の言葉でお互い酩酊し夜明けまで腰を振り一晩きりの逢瀬を遂げる「アイシテル」「ダメ〜ぎもちいい〜」「アイシテル」「突いて〜」「アイシテル」「もうダメェ〜」「「イッグゥゥゥゥゥゥゥゥ♡♡♡」」相手のとりあいで喧嘩のあとは酒を酌み交わし仲良く兜あわわせでしごきあい最後は顔射し合って笑顔でキスしている写真をインスタグラムのストーリーに投稿寝室のゴミ箱はつねにティッシュの山多くの学生が部屋着で夜コンビニへ行くのがしだいと億劫になり粘膜同士がこすれる快感に溺れてゆく学生はこのように夏休みにSNS感覚で竿姉妹穴兄弟を量産する過程でやがてその身に訪れるリアルな死の実在を得るつまり大学という機関はバタイユの言う「小さな死」を幾度も経験することにより個の直面する絶対的孤独と種としての連続性を学べるばしょなのだよってどこの大学に入学しても習得できる知識はかわらない大学で唯一えられる知見それは身をもって得た「生命倫理」表層的には経済や医学やら哲学だの学部で棲み分けされているがそれは社会的テイサイであるおまえにももちろん彼女ができた学生ではなく学内に勤務する清掃員の老婆だ彼女は今年で72歳髪は20センチくらいのショートへアで毛染めがところどころ薄くなっている腰は30度ほど曲がっておりむかし大怪我したらしい右足を引きずりほうきを杖がわりにびっこひき歩く姿にはなんとも言えないメメントモリ感がある出会いはおまえがだれもいない朝方のサークル棟の女子トイレでオナニーしているところを彼女に見つかり苦しまぎれに「おれのココもいますぐキレイにしてくれ」と口淫を強要したのがきっかけであるそれから毎朝同じ場所で老婆の口内に射精することが日課となる過程でおまえは彼女の不慣れで不器用ながらも献身的な性技と入れ歯を外し咥えられたときの歯茎の柔らかさに惚れ告白彼女もそれを受け入れてくれたふたりは照れながらサンポール臭い便座の上で熱いキスを交わしたデートはもっぱら大学からほど近い彼女の住む家賃四万円の六畳一間のアパートだった内装は古臭いながらも掃除が行き届いており防虫剤のような老人特有の匂いはするがテレビもクーラーもあり快適だおまえは3回目のデートで茶をすすりながら『新婚さんいらっしゃい』を観ている彼女に欲情を抑えきれず座椅子ごと押し倒しスウェットとびろびろにのびたベージュのショーツをぬがし手入れのされていない薄い茂みにむしゃぶりついた彼女はか細く声をあげのけぞり逃げようとするがおまえはひんやりと冷たく柔らかい太ももをガッチリと掴み激しい陰核への愛撫を続けた彼女はしだいと抵抗をゆるめ小さくうめいたかと思うとチョロチョロと尿を漏らしたのでおまえはおどろき顔をあげ彼女をみた顔を赤らめ視線をそらす彼女の姿に心の底からときめきと愛おしさが込み上げ彼女の頭をやさしく撫でながら優しくキスをした「ごめん…おれこーゆーのはじめてで焦っちゃって…」「やさしくして…」ふたりはそのまま結合し三日三晩セックスに明け暮れた糞尿が部屋中に飛び散り畳と布団は腐り彼女の腰痛は悪化し隣人から異臭の苦情がきたり「高齢者宅に強盗が押し入っている」と通報を受けた警察から事情聴取を受けたりハプニングは多々あったが初体験後のふたりのあいだにはたしかな愛の絆が生まれたシャワーを浴びて汗や涎や糞尿を流し終わると裸のままふたりで畳に座りアイスを食べながらテレビをみた昼間のワイドショーでコメンテーターたちが喚いている腐ったヘチマのように垂れた彼女の乳房の先に滴がたまっている「乾いたイタリアンソーセージみたいな乳首だねカワイイ」「恥ずかしいわ」おまえは程なくバイトをやめアパートを出て彼女と同棲するようになったお互いはじめての恋人ということもあり毎晩抱き合ううちに次第と恥じらいより好奇心が勝り行為の内容も幅広く濃くなっていった彼女の最近のお気に入りは首を革製ベルトで絞り後背位の体勢で激しくピストンされながら握り拳を肛門に突っ込まれることだ昨晩もいつも通り肛門に拳を入れながら突いていると彼女はいつもより激しく顫動しイッたあと動かなくなり呼吸も止まっているようなのでおまえは慌てて救急車を呼んだ隊員が駆けつけると布団のうえで裸の老婆が掘削中のトンネル現場のように穿かれたケツの穴を開いて四つん這いで倒れている横でおまえは体操座りで放心していた1ヶ月もたたないうちにおまえの「一夏の恋」はあっけなく終わった…彼女には身寄りがなかったので現場での事情聴取の合間に彼女のたんす預金をポケットとバッグに詰め込み不慮の事故という形で事が落ち着くとその金で共同墓地での簡単な葬儀を済ませ悲しみを紛らわせるためにお気に入りのvtuberへのスパチャに10万使い残り3万円警察と不動産会社によって慰留品は速やかに全て処分され住居を失ったおまえはかれこれ一週間ほど公園に住んでいるポケットには残り1500円もう明後日から学校も始まる夏の終わりに告げるようにヒグラシの鳴き声が響き渡る…おまえはベンチに仰向けになりポケットに入れてあった彼女の入れ歯を口の中に放り込んで味わった「別れ…死…なんでこんな悲しい想いをするってみんな知っているのに人生を謳歌しようとするんだろう生まれたことを後悔しないんだろう何故みんな普通の顔で日常を送れるんだろう」考え疲れ入れ歯をポケットにしまったもうすぐ日が暮れるおまえは段ボールを被り早めの眠りについた「彼女の名前くらい聞いておくべきだったなぁ」それから30年後おまえがノーベル経済学賞に選出されるのはまだ先のお話。
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