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1-21 concrete epic

おまえは最近頻繁に腹痛に襲われ血便も出るようになってきたため有給をもらい近所の内科で診察してもらうと「石鹸を食べてはいけません」と酷く怒られ下剤と抗生物質を処方してもらい帰路についた途中コンビニで惣菜パンとカップラーメンとメビウス10mm1カートンを購入し家に着くとティファールで湯を沸かしテレビをつけニュースを眺めながら買ってきたタバコに火をつけた「まだ昼前か〜久々の平日休みだしパチンコでも行くか」遅めの朝飯を済ませると隣街の商店街まで行くため駅へ向かうと高校生くらいの若いカップルが手を繋ぎ仲睦まじく前を歩いている姿が目に入り43歳独身でたいした稼ぎも無く熱中できる趣味もパチンコか競馬くらいで素人の一般女性とこれまで付き合ったことは無く初体験も高校2年生のとき不登校になった際におまえの自殺を止めようとする母の心情を利用して「童貞卒業できたら死ぬのやめる」と頼み込み犯したという最低の過去で(その後約束通り自殺を試みることはやめ高校もダブりながらもなんとか卒業したがその間2年ほど母が行為中に心臓発作で急逝するまで毎晩犯していた)もうこれまでもこれからもおまえの人生にはあのカップルのように周りにハートマークのエフェクトがキラキラ瞬いているような魂の接触や毎日に何かしらのドキドキが待ち構えているような期待と共に迎える朝も…そう『青春』と呼ばれる爽やかな風が吹くことは無いのだと考えているうちに気分は沈んでゆきパチンコに行く気も失せてきたので駅前の喫茶店に入りソファに深く腰掛けタバコに火をつけ使い始めの雑巾のような色に変色している煤けた天井を仰ぎながら煙を燻らせた次第とおまえの心の中の輝かしい青春への幻想はニコチンとタールでゆっくりと濁り始めおまえの嫉妬を絡め取りながら冷えた鉱油のような諦念の沼の中にとっぷり沈んでいった「しかし」コーヒーカップを口に運びながらピタと止まり考えた「何も行動を起こしていないのに全てを諦める必要はあるだろうか?まだ40代なんだ若い奴よりちょっとリスク背負ってるだけで何かに挑戦して失敗が許されないわけではないぞなんなら今の現状だって何にも挑戦してないからこその結果じゃないか挑戦しない奴には輝きなんて獲れるわけもないのに…おれはこれから青春するぞそう思い立ったら即行動するんだ!それしか人生を変える手段はないじゃないか何をクヨクヨしてるんだ!」突然の心境変化により人生を改める決意を心と古臭い柄のコーヒーカップに誓うと喫茶店を飛び出し青春を取り戻す第一歩としてJKリフレへと向かった店員から指名やオプションなど細かいシステム説明を受けたがいまいちわからなかったので今出勤している子を適当に指名し『基本リフレ+添い寝オプション60分7500円』を選びプレイルームへ向かうと3畳くらいの小部屋に花柄の布団が小洒落た間接照明に照らされて敷いてある程なくして来た女の子のルックスは可もなく不可もなく歳の程は20歳くらいだろうか酒とヤニと男のイチモツを体内に入れたことのある肌だそこに高校時代おまえが一番苦手だった部類の連中と同じ匂いを感じる彼らは究極の諦念とも呼ぶべき思考を持っているそれは人生に起こる問題を常にイエスかノーの二択で処理「できる」ということだつまりおまえのようにウジウジグダグダ立ち止まる事を許さないのだ彼らの人生は常にどの選択をするかという「迷い」のみで彩られており決して問題を大きく漠然とした事柄として捉えて歩みを止め「悩む」ことは無いどれだけ情報を取り入れ精査できるかというスペックの差が身分の高低を作ってゆくが根本的には彼らは全て同類であり社会のマジョリティなのだおまえも遂に今まで嫌悪の対象であった究極の諦念へ自らの身体を供物として投げ入れる時が来たのだ彼女はこの世に存在しないであろう架空の学校の制服を身に纏い化粧を顔面に塗り込み心情を埋設し切った笑顔でおまえに挨拶をしたカラコンのせいだろうかそれとも金をケチった目頭切開のせいか目がドス黒く大きく作り物のようでそれは祖母の家に飾ってあった古い西洋人形の空虚で硬質な目と似たカビ臭い恐怖をおまえに思い出させ瞬間後退りしたがここで終わってしまっては青春は取り戻せないと思い止まりボソボソと会釈したプロでは無いのでマッサージは微妙だったが久しぶりの人肌の暖かさは心地よく女の子は見た目と年齢に似合わず聞き上手でおまえはすぐに彼女の虜となり修了時間まで終始勃起が収まらず苦労したその後おまえは週一で彼女の勤務に合わせては来店し色々な話をした高校時代不登校だったこと母親との思い出や家族がいないこと長年味覚障害を患っていて石鹸以外何を食べても油粘土のように感じること漫画『下町ロケット』のモチーフになったと言われている町工場でロケット花火の製造ラインに勤務していること自分の鼻糞やへそゴマを混ぜ込んだ餌を近所の外飼い猫に食べさせる趣味のこと彼女はいつもニコニコしながら頷いておまえを肯定してくれたおまえは気付いたおまえは誰かに必要としてもらいたかったのだとそして誰かを通じて誰かに承認して欲しかったのだと「もう中2臭い陳腐な独我論は卒業だ誰かの役に立つことは素晴らしいことだこれが青春ってやつなのか」店に通い詰めなので出費も増え(散歩コースという時間制のデートもできるのだ)平日フル出勤でも時給900円の月収では資金繰りに困り始め消費者金融に足を運ぶ回数が増えた頃ある日珍しく彼女は寂しげで話を聞くと親が多額の借金を残し死んでしまい彼女がその債務を全て負うことになり困り果てていると言うのだ彼女は「助けて欲しい」と袖を濡らしながらおまえに抱きつき詳しく話したいと勤務終了後おまえの部屋に初めて訪れた話を聞くと要するに500万円が早急に必要なので貸して欲しいということだったただでさえ金の無いおまえには到底無理な要望だったが彼女は「こっちへ来て」とおまえを横に座らせキスしながら手コキしてくれ2分ほどで勢い良く果てた後おまえはすんなりと了承してしまったが困ったそんな大金あるわけない翌日大切な彼女を守りたいという使命感とそれに応えれる力のない自分の情けなさに苛まれながら工場へ出勤すると朝礼後開発設計部の主任と社長に会議室へ呼び出された「昨日海外のとある大富豪から突然商談を持ちかけられたんだその方は最近宇宙開発事業に興味を持っているそうでね我々が昨年開発した大気圏を超え宇宙まで飛ばせるロケット花火をドンキで売ってる花火と同程度の価格帯で作っていることを評価してくださっているんだそこでその花火を人の体に装着して宇宙へ飛ばしたらどうなるのか実験してみて欲しいと言われているんだまぁぶっちゃけ金持ちの道楽で金はいくらでも払うから人を飛ばしてみたいってことだしかし長年経営が傾きっぱなしの我が社には千載一遇のチャンスなんだ長くなってしまったなまぁなんだそこで君に相談があるんだ確か君は独身で家族もいないよねもしもの事が有れば手厚くサポートしてあげるから花火付けて大気圏まで飛んでくれないかな」難しい話はよくわからなかったが要するに命売れば金が手に入るって事だ元々内臓をいくつか売るしか道は無いと思っていたのでおまえにとっても願っても無いチャンスだったおまえは社長に500万の特別手当を要求しもし死んだ場合は愛する彼女へその金を渡すように約束を取り付けた1週間後おまえは社員全員とアラブっぽい富豪が見守る中ロケット花火を背中にセットして飛んだ宇宙服でも防護服でも無く短パンにTシャツ姿だったので案の定大気圏で体が燃え始め一瞬煌めいたと思ったらフッと消えた地上から見ていた社員たちは重力という法則に逆らって飛び立つ流れ星のようだったと感動で涙を流しおまえの勇姿を語り継いだこの実験成果により世界的な独身者の爆発的増加に伴う無縁仏の処理問題を『ロケット葬(死体を簡易な棺桶に詰め飛ばし大気圏で燃やす)』という新しい形で解決へと導き工場の経営は安定し富豪はその特許で稼ぎ例のJKリフレの彼女は無事500万円を会社から受け取ると実家へ帰り新車を買い残りの金はネイルサロンの開店資金に当てた(5年後に閉店)おまえの人生は誰から見てもパッとしないしロクでも無い人生だったかもしれないしかし最後の一年間おまえはそれを必死で変えようとしたその過程でおまえは心を取り戻し愛と正義と勇気を知ったそう燃えるような青春を取り戻したのだそして最後は文字通り燃え尽きた誰もおまえの人生に後ろ指を刺す権利は無いおまえは今まで誰もなし得なかった「孤独」という重力の足枷を断ち切り生の果てへと飛んでいったのだ。

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