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1-16 concrete epic


これは今から56年前の話だ突如下北沢が眩い光に包まれ全壊し直後に宇宙人が襲来した宇宙人たちは非常に友好的であり(どうやら下北沢の破壊は意図的ではなく船のトラブルだったようだ)当時の政府は宇宙人と交渉し地球外の進んだ科学技術を提供してもらう代わり彼らの居住区を作り船を修理する間一時的に住んでもらうことを提案彼らには「移動し続け無ければ死ぬ」という不思議な生態があり電車という初めて見た乗り物に非常に興味を持った(当時の首相との対話中にも彼らは直径2メートル程のドーナツ状のルームランナーのようなものに乗り回り続けていた)中でもJR中央線に並々ならぬ関心を抱いており(景色が良いらしい)政府は24時間停車駅無しで稼働し続けるJR中央線を宇宙人専用として提供したため中央線は実質廃線となり沿線上の住人たちは長らく大規模なデモや暴動を起こしたが政府は新しい技術の恩恵を授かり他国の追従を許さない独占的利益を得ることが最重要だったため簡素な説明会と微々たる補助金によって後は警察と言論統制によって鎮圧させたしかし西東京を横断する線の譲渡が少なからず経済に影響を与えることは確かでありまた人間に友好的であることから今後も観光と貿易で居留する宇宙人が増加する可能性を考慮し政府は今後地上の路線を宇宙人専用として運用することを想定したそして全ての都内地下鉄全線を人間専用に用いる政策を打ち出し延長工事を推し進めたそして13年がかりで都営大江戸線が青梅まで開通したことにより(旧青梅市立美術館跡地の真下)地球外からの文明によって日々激変してゆく都会の喧騒を逃れ田舎の自然と手軽に戯れることによって自身の揺らぎやすいアイデンティティを取り戻しに来る日帰り客が増えることを見越した青梅市長は「これは辺境の地として都会暮らしの人間から倦厭されていた青梅に活気を取り戻す好機」と急ピッチで山を切り崩し〝青梅の自然の恵みとスローライフ〟をコンセプトに800平米9階建の巨大アミューズメント型商業施設『OUMEMENTOー森(オウメメントーモリ)』を建設したまず地下1階は〝自然に還るココロとカラダ〟のキャッチフレーズで有名な青梅に本社のある生前土葬専門葬儀会社『エドゲイン埋葬興業』が主催する生き埋め体験アミューズメントパークが開園され最新技術を用いた各アトラクションによって臨死体験に限りなく近いスペクタクルな体験を身をもって楽しめる内容となっている(『手作り即身仏制作ワークショップ』など家族で楽しめるイベントも多数予定されている)1〜3階には青梅の特産品や伝統工芸品や採れたて直売野菜のショッピングモール4〜6階には青梅の風景をプロジェクションマッピングやVRでたっぷりと楽しめる『NEW青梅歴史史料館』そして7〜8階には森林の化学物質汚染によりイノシシやアオダイショウやツキノワグマなど青梅ゆかりの動物が突如獣人化+凶暴化し青梅市民を一人残らずレイプし斬殺するという設定の自然環境保全啓蒙型新感覚エログロ秘宝館『OUMEハザード-extra-』が常設展示されている9階はレストラン街となっておりマクドナルドやサイゼリヤや一蘭やドトールなどの一流有名店がズラリと名を連ねお客の空腹を満たしてくれる駅開通日に合わせオープンした『OUMEMENTー森』は初日から大盛況となり一週間で述べ9000人(市長個人の感想に基づく)が訪れ青梅独自の自然豊かな暮らしや文化を堪能したこの都心から離れた田舎町の一件は〝何も無い〟という欠点を魅力として売り出した新規性と施設内での死傷者や事故を『自然』の名を冠し堂々と公表するという人権や法に無頓着なマーケティング手法が(客は入場ゲートにて数枚の念書に拇印を押す事が義務付けられている)多大なポリティカルコレクトネスの重荷を対価に安定した精神と肉体と生活を享受する現代の都民には真新しく写り特に宇宙から到来した圧倒的文明格差を目の当たりにし深刻なニヒリズムに陥った中高年単身者を中心に熱狂的に受け入れられたまた駅周辺に宿泊施設を全く増設しないという市の方針は(数軒のビジネスホテルかラブホテルしかない)大半の観光客を半強制に日帰りさせホテルの予約が取れなかった宿泊希望者は森林内に設置されている有刺鉄線で囲われた50m2程の更地『素泊まりセンター』で狩猟犬監視の下野宿させることによって環境の変化を恐れる地域住民への配慮となっている青梅史上いまだかつて無い賑わいをみせている複合施設の影響を受けて近所のおまえの喫茶店にもチラホラと客が入るようになり創業50年以来の大繁盛となった(なんと多い日にはインスタントで作ったアイスコーヒーが15杯も売れるのだ)叔父の市長の功績に学んだおまえは喫茶店のメニューにも地域の特色を出せば更に売れると考え庭に生えていた雑草と煎ったコーヒー豆を味噌汁で煮出し『元祖青梅コーヒー』と名付け看板メニューとして売り始めると口に含んだ瞬間の衝撃的な辛さと頭痛を伴う強烈な苦味が「美容に良い」「まさに良薬口に苦し!」「健康食品の究極系」など根も葉も無いオヒレがこびり付きながら徐々に口コミで話題となり店は更に売上を伸ばし知名度も上がったおまえのコーヒーを飲みに通う常連もできたその常連のうちのひとりであった国分寺在住25歳事務職の女性におまえは亡き母の面影を見て恋をしたある日「作り方を教えてあげる」と自宅へ招き隙を見てコーヒーに睡眠導入剤を混ぜ強引に関係を持った彼女が意識を取り戻すとおまえは録画した一部始終の映像を見せた後ガストーチバーナーの口部を彼女の喉に押し当てながらゆっくりと顔を近づけプロポーズした「あなたが好きです!結婚して下さい!」彼女は嬉しかったのか涙を流しながら(もしくは猿轡と手足に巻き付けられた鉄枷におまえの深い愛を感じたのか周りに転がっている大量の人骨を見て死に対する新たな知見を得て感動したか)小刻みに何度も頷いた56歳と25歳という大きく歳の離れた者同士の結婚ということに親族は最初あまりいい顔をしなかったが叔父の市長が大きく後押ししてくれたこともありプロポーズから3ヶ月後に無事結婚した家庭は円満でおまえは妻を愛し妻もおまえを愛していた仕事も家庭も順調だったが結婚から2年後めでたく子を授かった事を医師から知らされた頃から妻の言動がおかしくなりおまえが仕事へ出かけている平日の昼間JR中央線へ飛び込みお腹の子諸共死んでしまった地元警察は妻が深刻なマタニティーブルーを抱えていたため心身喪失状態によって衝動的になされた自殺と結論付けたJR中央線は宇宙人のために四六時中ノンストップで運行しているのでなかなか死体が回収出来ず地元住民も協力しどうにか20リットルビニール袋半分程の骨つきミンチ肉を集めたおまえは妻と子供のミンチ肉を警察から渡されるとタッパーに移し替え冷蔵庫へ押し込め悲しみに打ちひしがれ酒を飲んだ「なんでこんなことに…」翌朝おまえに1つのアイデアが浮かんだ「妻と子供の供養にはこれしか無い」ミンチ肉を喫茶店のキッチンへ持って行くとまず大きな寸胴鍋に水を張り沸かしミンチ肉を残さず投入した20分ほど中火で煮立たせるその後火を消して味噌を溶かしてまた弱火で5分加熱し出来た煮汁でコーヒーを作るのだその名も『愛情たっぷり愛妻コーヒー』これが今でも世界中のコーヒーマニアの間で語り手がれているあの名店の看板メニューが出来た経緯だもちろん煮汁は3日ほどで捨てるから安心してくれよ今ではハトやネズミの死骸がミンチ肉の代用になっているけどまぁ肉の味なんてどれも一緒だしなこれを飲まなきゃあお客さんコーヒーは語れませんよ。


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